寄り道
マチルダ達と分かれた辺りから道なりに南東に進むと辺りはずいぶんとなだらかな地形になり、村や街も道沿いに半日のんびり歩けば見えてくる、とゆう位に増えて荷馬車や旅人とすれ違う事もある。
ただ山や森に近く、少し街道から外れれば人との交流を避けるように暮らす他種族も多いとゆう土地柄もあってか、所々にまるで"それより先に踏み入るな"とでもいうように大地や水の精霊を表す印を刻んだ石が置かれていて、カティーナは時々その奥から何かを感じるらしく視線を向ける。
しかし視線を向けるだけで緊張した風もなく、急ぐこともなければ立ち止まることもない。
オーリスの様子からしても危険はないのだろう。
強かった日差しは薄雲に遮られ、風が吹いていることもあってそれほど暑くもない。
天気だけではなく街や村が増えれば道中で水が足りなくなる心配も減り、のんびりと歩いていた三人とオーリスがまもなく、朝から考えれば三つ目の村に着く、とゆうところで予期せず名前を呼ばれたシャトはその声の主を探すように振り返った。
その先に居たのは人が荷を運ぶのに使う馬よりやや大柄な動物に乗り森を抜けてきたらしい一人の女性。
クラーナの従姉妹だとゆうその人にはシアン達も既にシャトの家で会っている。
「ルイテさん、キリオは一緒じゃないんですか?」
「ちょっとだけ別行動」
ルイテはそう言ってパートナーなのだろう動物から下りる。
寄り添うのは竜馬に似て硬い鱗に覆われた身体だが、翼を持たず牙もない鎧馬だ。
鎧馬と呼ばれる系統の中では珍しく、頭の横にはえた大きな角が目立つ。
「ククルアさんお久しぶりです」
シャトのお辞儀を受けた鎧馬は静かに頭を下げ、シャトにもルイテにも甘えるような様子はない。
シャトとレイナン以外に大型の魔獣を連れている者はいないとゆうことから、その角は珍しくとも、魔力を持たない個体なのだろうが、その振る舞いからみるとかなり長くルイテとともにいるのだろう事が窺えた。
ただシャトは"久しぶり"と口にしていて、シアン自身もシャトの家でククルアと呼ばれたこの鎧馬を見た覚えはない…。
そんなことを考えていたシアンに柔和な笑みを向けたルイテは
「シアンさん、カティーナさん、北での事、面倒をかけました」
と深々と頭を下げる。
二人が「いえ、そんなこと…」と答えることからはじまって、一通りの挨拶が済むと、ルイテはシャトに向きなおり、森の方を指差した。
「頭領が来てるのよ、すぐって程近くはないけど、まぁすぐそこ。ティオも来てるわ。よければ寄ってあげて」
『えっと…』とどう答えるべきか悩んだらしいシャトにルイテは続ける。
「トクラは居ないわよ」
「いえ、別にそれは…」
若干困っている様子のシャトだったが、それはシアン達を寄り道に付き合わせる事に対してらしく、どうしましょう、と目で問い掛けた。
が、"頭領"とゆう言葉から始まり知らない名前が二つ出た為か、シアンとカティーナはどう反応すべきか分からないらしく、シャトをただ見返している。
ルイテは三人をまとめて眺めていたが、
「近くに家でお世話になっている傭兵団の一部が来てるの。その頭領も一緒に。今回来てるのは割と人当たりのいい仲間だからシアンさん達が一緒でも問題ないわ、頭領も居るし…。場所はわかるでしょ? まだ二、三日は居るみたいだから、気が向いたら行ってみるといいわ」
と早口で口にし、話すべき事はこれくらいか、と一人で頷くと『まだ用があるから』と簡単な挨拶だけを残して颯爽とククルアに跨がると元来た方から道を挟んで反対側の森へと去って行った。
「えっと…どうする?」
「その様子だとシアンさんは行ってみたいのでしょう?」
シアンとカティーナはそこまででシャトを見る。
「…お二人が構わないなら。少し驚くかもしれませんが…」
突然の事だったが、早々に寄り道することが決まると、シャトは『たぶん今からなら急げば日暮れ頃には"陣"につきます』と言う。
その言葉にシアン達は頷き、荷物を抱え直すと足早に歩き出したシャトを追って森へと分け入って行った。