ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

行く先

シャトは首を捻ったシアンを不思議そうに見つめていたが、クラーナに促されて椅子に座るとカップに注がれたお茶の香りに目を細め、ふっと息を吐いた。

「皆出かけてるの?」

シャトはキリオや大叔父のパートナー達の姿が見えないから、とそう尋ね、家の外に顔を向ける。

シャトの見ている先にはこちらを向いたリーバとティカの姿があり、クラーナは手を振りながら『後で行くわ』と声をかけた。

「北が大丈夫そうだと分かって叔父さん達はレイナンの代わりに配達に。キリオ達は頭領に挨拶に行ってくるって」

"そう"と頷くシャトのとなりで、クラーナはシアン達に向かって口を開く。

「皆、二人とまた会いたがっていたけど、戻るまでにはまだ時間がかかかるから…。二人はこれからどうするの?」

「レイナンさんからお祭りがあると聞いて、村までシャトさんに同行させてもらうことにしました。それから先はまだ決めていません」

クラーナは大きく表情を変えることはなかったが、内心の驚きと困惑からだろうか微かに眉が動いたようだった。

そして"レイナンのことだ"と、何か吹き込まれているであろうシアンを見ながら、自分も同じかとため息をつき、シャトとよく似た、あの困ったような笑顔で口を開く。

「ここのところ天気もいいし、きっと綺麗よ。折角だから今日は泊まっていって。明日の朝ここを出れば十分間に合うから」

ティーナとシアンは顔を見合わせたが、『ありがとうございます』と頭を下げ、『ゆっくりしてて』と立ち上がり外へと出ていくクラーナを見送った。

いつの間にかカティーナの回りに広がった光は消えていて、シアンは自分の皿に乗った精霊の蜜玉を避けるようにして菓子を食べはじめる。

しかしその手はすぐに止まり、口の中のものをお茶で流し込むように飲み込みシャトに顔を向けると、

「ヴィートとか、洞窟の様子とか、見に行くつもりある?」

と、唐突に尋ねた。

「出来るだけ早いうちに行ってみるつもりではいますが…?」

「一緒に行く? 私達と一緒に歩くと時間はかかるけど、街まで案内は出来るよ」

誘うつもりは無い、と言っていたシアンのその言葉にカティーナは不思議そうにしてはいたが、特に何を言うこともなく、シャトの方を向く。

シャトの表情は強張り、一点を見つめた瞳は微かに揺れている。

しばらくそのままぎゅっと手を握りしめ口を開かないシャトに、カティーナが何か声をかけようかと思ったところで、『よろしくお願いします』とシャトは小さく言って頭を下げた。

「ん。改めてよろしく」

シアンはそれだけ言うと黙々と残りの菓子を口に運んでいくが、何故かシアンの方も眉に力が入ったような何かを考えているような顔をしている。

ティーナは何故そんなことになっているのだろうか、と二人を交互に見た後で冷めたお茶を口にした。