ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

後押し

シャトがお茶を淹れ直す為に立ち上がると、カティーナは菓子を食べ終えた皿を下げようと後に続いた。

シアンは最後の一口を頬張り、皿の上に残った精霊の蜜玉をどうしたものかと悩んでいるようだったが、野菜を抱えて戻ってきたクラーナの姿にそれを口に放り込む。

舌の上で砂糖菓子のように溶けるそれには本来味が無いにも関わらず、身体に広がる精霊の魔力のせいか、シアンは美味しいと感じたらしい。

そして美味しいと感じたその奥では優しさのようなものが満ち、シアンは少しだけ表情を緩めた。

ティーナの時の様に光が溢れることはないのだろうか、と思ったところでシアンの胸元にほわんとあかりが灯り、そのあかりはふわりふわりと浮かび上がり広がっていく。

それは日を浴びてきらめく澄んだ泉と木立、そして二つの人影を映し、揺れる髪や枝葉は見るものに風を感じさせる。

「あら…」

クラーナの声に振り向いたシャトは手にしていたケトルを思わず落としかけたが、横から手を出したカティーナがそれを受け止めると一筋の湯がその場で凍りつき、辺りにはころころと小さな氷が転がった。

「すみません」

「火傷しませんでしたか?」

「大丈夫です…」

木に寄り掛かるようにして立つ女性には右の手足が無く、そばで遊んでいるらしい小さな女の子を追って動いた髪から覗く顔や首には古いものなのか茶色く沈んだ傷跡がみえる。

クラーナよりもいくぶん小柄で髪も短いが、目鼻立ちはよく似ていて、女性の口の動きに合わせて振り返った女の子はどうやらシャトらしかった。

「ずいぶん懐かしいものがまじって居たのね」

クラーナの声は優しいが、そこに寂しさが重なっているようで、シアンは見えているものについて尋ねることが出来ないまま、その女性を見つめていた。

木の根本に座り、シャトを左腕で抱き寄せた女性は遠くを見ながらシャトに何かを語りかけている。

しばらくして辺りにオーリスを含め何頭もの生き物が集まって来たところでその風景は薄くなり、女性が振り返ったのを最後に消えていった。

シャトは何かを考えているのか、黙ったまま女性が居た辺りに視線を落としている。

クラーナはそんなシャトのそばによって、

「お茶、淹れ直すから座ってなさい」

とそっと背中に触れ、カティーナが持ったままになっていたケトルを受け取り、その先から出た氷をつつく。

「不思議なものね」

その言葉はカティーナが作り出したに氷に対してなのか、今見た風景に対してなのか判らなかったが、クラーナは静かに微笑んでいた。