気付き
「二人ともお帰りなさい。シャトちゃん先に戻ってきてるわ。とりあえず危険はないんですって?」
二人を出迎えた女将はにっこり笑ってそう言ったかと思うと、食堂の客達の中へと軽やかにうつっていく。
客達の話題は先ほどと変わらず嵐と運び込まれた獣人達のことが中心で、所々席が空いてはいるが建物の中も外とかわらず賑やかだった。
シャトは庭の方でオーリスと遊ぶ子供達を眺めていたが、二人に気づくとこくんと斜めに首を下げた。
「早かったんだな」
「ええ、外に出てからはオーリスが走ってくれたので」
「シャトはもう荷物まとまってるのか…」
「はい、いつでも出られます」
ふっと微笑んだシャトから視線を外したシアンはライマに言われたことを気にしているのか眉をしかめている。
「私達も荷物をまとめて来ましょう」
「ん、あぁ。じゃあ、シャト、少し待ってて」
「はい、ごゆっくり」
シャトに手を上げて応えたあとで、カティーナの後ろから階段を上るシアンはこめかみの辺りをかりかりと掻き、シャトの家を訪ねた時にクラーナの言っていたことを思い返していた。
"人の中で生きるためには排他的にならざるを得ない"
排他的な獣遣いとゆうのはシアンが自分の街の獣遣いに対してした形容だったが、クラーナはそうならざるを得ないと言っていた。
シアンだって一人の獣遣いだけの印象で"排他的"と言った訳ではなかったが、シャトやその周囲の獣遣い達はその印象から大きく外れていて、シアンは自分の中の獣遣いの印象の変化に今回のことで改めて気がついたらしかった。
「どぅふ!!」
「…!? 何してるんですか」
「…わるい」
前を行くカティーナが部屋の前で立ち止まったことに気付かず、その背中にぶつかったシアンはへらっと笑って頭を掻いた。
「顔、大丈夫ですか?」
「何ともないよ。荷物まとめたら下でな」
「はい、また」
ひらひらと手を振り自分の部屋へと向かいながらシアンは唐突に"人の考えに安易に踏み込むな"とゆう言葉は何も獣遣いに限った事ではないな、と立ち止まり、振り返った。
そこにカティーナの姿は無かったが、
「じゃなきゃ一緒にいないだろうよな」
と呟くと再びこめかみを掻き、過去に似たようなことで何度か人と揉め事を起こした自分に苦笑いをする。
「まぁいいか、なるようにしかならないよな…」
シアンはそう言いながら自分の部屋の扉を開けると『あ"っ』と声を上げ、扉を閉めることもせずにカティーナの部屋へと向かって行く。
ノックをするとすぐに扉が開き、大きな荷物を抱えたカティーナが眉を寄せて笑いながら『今そちらに行こうと…』とその荷物を差し出す。
「悪い、すっかり忘れてた」
「ずいぶん買いましたね」
「割と安いし、あんまり見かけない物もあったもんだから…」
「これだけの物、持って歩けますか?」
「大丈夫だろ、半分は食べ物だし食べれば減る」
呆れたようなカティーナにシアンはその中から新鮮なフルーツを一つ取り出すとぽんと手渡し、にっと笑うと『じゃ』と部屋に戻って行った。