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じっと絵を見つめたあとでカティーナは首を横に振ったが、シアンは首をひねりながら眉をしかめている。
「なんか、南の山の方で似たようなの見たことある気はするんだけど、この膜みたいな翼がなぁ…」
首を傾げたままのシアンのよこでシャトとライマは顔を合わせ小さく頷きあい、どこか安心した様子を見せた。
「もう一度獣人の方々にお会いシてきまス。オーリスサんとシアンさんのおかげで嵐自体はこれから街に影響を及ぼスことはないと分かりまシたシ、街の皆サんともお話シできるでシょう。獣人の方々が何かを話シて下サったらそれをお伝えできたらと思いまスが、これからどちらに? 宿に戻られまスか?」
「シアンさん買い物は…?」
ライマの問い掛けに続いてシャトが尋ねると、シアンは『もう気はすんだから』といつ街を離れてもいいとゆう意味の返事をした。
カティーナもシャトの視線を受けると頷き、シャトはライマに向き直ると握手を求めるように手を差し出した。
「私達は立ち寄っただけですし、先がありますので荷物をまとめ次第街を離れます。元々街の外の人間ですから、騒ぎの中、居ては迷惑になる事もあるでしょうし…」
「ソうでスか…。残念でスね、せっかくならもう少シお話出来れば良かったのでスが…」
「あの宿のご夫婦は善い方です。何かの時にはお訪ねになってみるといいかもしれません」
ライマはシャトの手を取りながら『はい』と微笑み、シアンとカティーナにもそのままの表情で『ありがとうごザいまシた』と言って頭を下げた。
ずっと静かにしていたオーリスは自分で扉を開けて一足先に外へと向かい、シャトは
「一旦街の外に出て、外を回って宿に戻ります」
と、シアンとカティーナは街中を行くとゆう前提があるかのように言うとそのあとに続いた。
「お二人は表からどうゾ。大通りまでお送りシます」
ライマに促された二人はそのまま表に出て、獣人達の元へ向かうらしいライマと前後して歩いていく。
「私達が来た意味はあったの?」
唐突に尋ねたシアンの声に振り返ったライマははっきりと頷き、
「もちろん。あなたのおかげで大きな危険はないと判りまシた」
と答えたが、それ以上のことを口にする気はないらしく、シアンは何かもやっとした感覚が残ったことに口を曲げた。
「私はここで失礼シまス。皆サんの宿は一本先の通りを行った方がわかり易いと思いまス、もシ分からなくなったら"端の宿"といえば街の方ならスぐに分かりまスから、尋ねるといいでスよ」
「…ありがとう」
「では」
ライマは頭を下げると振り返ることなく人波の中に消えて行き、残された二人はゆっくりと歩き出す。
「何か考えているのですか?」
「ん? いや、獣遣いにさ、なんてゆうか、前はあんまりいい印象なかったってのを忘れてたなと思って…。最近人当たりのいい人が続いてたし…」
カティーナはシアンの言葉に頷くことは無かったが、シアンの言わんとすることは理解していた。
「シャトは、ライマと同じ考えだと思うか?」
「わかりません。ですが、シャトさんはライマさんではありませんから…」
カティーナの言葉を最後に二人は話を止め、騒ぎがあったことなどどこ吹く風といった様子の街を抜けて宿へと向かって行った。