ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

違い

シャトを訪ねてきた獣遣い、ライマの家は街の一角の、家々が建ち並ぶ通りの隅にあった。

周りが開けている訳でもなければ、家自体が大きいとゆう訳でもなく、周囲に特別動物の姿も無いが、シャトは迷いなく扉をノックする。

「お待ちシていまシた。どうゾ」

ライマはシャトの後ろに立つシアンとカティーナの姿を訝しがることもなく三人をまとめて家に迎え入れ、再びシャトと長い握手を交わした。

「改めて、私はライマといいまス。南の生まれでスが、何年か前からこの街におセわになっていまス」

褐色の肌に薄いグレーの瞳とやや瞳より濃い色のふわふわと柔らかそうな髪をもつライマは、シアンやシャトよりは少し歳上のようだったが、大きな瞳が目立つ顔立ちはやや幼くも見えた。

聞いた限り言葉は不自由なく使えるようだったけれど、変なところで息が抜けるようになるのが癖なのか、この辺りの言葉と比べると少し違和感がある。

「シャトといいます。こちらはシアンさんとカティーナさん…お二人とも獣遣いではありませんが、今回のお話を聞くにあたってご一緒していただこうと」

「よろシくお願いシまス」

 ライマは奥に陰りの見える瞳で微笑むと三人を奥のキッチンやダイニングとでもいった部屋へと通す。

そこにあったのは小さなテーブルと一脚の椅子だけで、ちらほらと見える食器から一人暮らしなのだろうことが窺えた。

テーブルの端に畳んであった地図を広げたライマはその中央を指差し『ここがこの街でス』と前置きも何もないまま話を始める。

「聞いた話によりまスと、運び込まれた方達が倒れていたと言うのがここ。ここから旅の方々が担いでいらっシゃいまシた。一人は腕に大きな傷を負っていまシたが、出血は殆どなく、傷が塞がりサえスれば問題は無いとのことでス。他の方々は目に見える傷はありまセんでシたが、身体の中に何か異常があると…。旅の方々には問題は無いようでス」

「原因は嵐なのでしょうか?」

「まズ間違いないでス。本人達が言うには…」

そこでライマはシアンとカティーナの顔をじっと見たが、続けて

「この世界は滅びに向かっている、だから外に出たかった、と…」

と運び込まれた者達が自らの意思で嵐の中に踏みいったのだのいう意味の言葉を口にした。

「…何でそれをシャトに?」

嵐についてならば魔術師に頼るべきなのでは、と、シアンが尋ねるとライマは答えづらいのか、少し目を伏せる様にしながら口元をもごもごと動かし、躊躇いがちに口を開いた。

「街の方々にお話スる前に誰かとお話をシたかったのでス。"私達"にシか分からない事もありまスから。でスが、私は近くに獣遣いの仲間もいまセんシ、誰とも"繋がって"いまセん。ソれで街の方に尋ねたらあの宿に時々出入りをシている方がいると教えていただいて…ちょうどいらシているときで助かりまシた」

ライマの言う"私達"は獣遣いとゆう意味だろうが、何が獣遣いにしか分からないことなのか、とゆう部分にはシャトもライマも触れず、そのまま話が先に進むかと思ったとき、シャトが『ごめんなさい』と話を切った。

「オーリスが、私のパートナーですが…嵐の様子を見に行って貰っていたのですが戻ったようです。その話も聞きたいですし迎えに行ってきますから少しお待ちいただいていいですか?」

「分かりまシた。連れて戻られるのなら通りの奥から家の裏に回れまスから」

シャトが頷いて家の外へと向かうと、シアンはライマに向かって『裏にパートナーがいるの?』と尋ねた。

しかしライマは首を横に振り、はっきりと否定すると

「私は一切パートナーをもちまセん」

とシアンの目をまっすぐに見て答えた。