ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

嵐の方へ

下で、と別れたものの、廊下でいつもと変わらない荷物を持ったカティーナと顔を合わせたシアンの荷物は、いつも下げているおおぶりな袋以外に背中に布の包みが増えていた。

すぐに街を離れるとゆう事を聞いていたのか、階段を下りてきた二人の姿を見るなり女将が包みを抱えてやってきたが、シアンの荷物を見て、市の日にはよくあることなのか、にこにこと笑うと『いい買い物が出来たみたいね』と言うだけ言って抱えていた包みはカティーナへと差し出した。

「大したものじゃありませんが、よければ夕食にでも召し上がってください」

女将はシャトに対する時の砕けた口調ではなく、お客様としての二人に丁寧に言い、腰から綺麗に頭を下げた。

「ありがとうございます。突然でいろいろとご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

ティーナの言葉に応えた女将と一緒に庭に出た二人はオーリスと並んで待っていたシャトに『お待たせ』『お待たせしました』とそれぞれ口にし、改めて女将に頭を下げた。

「お世話になりました」

「街にいらした際にはまた…」

そう言って微笑んだ女将はシャトに『またね』と手を振り、オーリスを先頭に木戸をくぐった三人を見送った。

三人の姿が小さくなるまで見送っていた女将の後ろから主人が現れ、

「シャトちゃんにも一緒に出かけるようなお友達が居たんだねぇ…」

「当たり前といえば当たり前だけど、ちょっと不思議な感じがするわ。小さい頃からレイナンさん達とオーリス…あとほかも皆獣遣いならでは、みたいな子達ばかりだったものね」

「ここに来るのは半分仕事だったしね…うん」

「さぁ、夕食の仕込み始めましょ!」

女将達が厨房に戻ると、二階から身を乗り出してシャト達に手を振った子供達も下りてきて、邪魔にならないように端の方に座ると手際よく動き回る両親やその他の料理人達の姿を見ながら、おやつがわりに少しだけ残っていたサラダや焼いた肉の切れ端を美味しそうに頬張っていた。

 

「これ、女将さんが下さったんです。夕食に、とゆうことでしたから何か食べ物なのだと思いますが…」

からしばらく歩き、短い休憩の中でカティーナはシャトに女将から渡された包みを示してそういった。

シャトは『気を使わないでくださいと話したんですが…』と少し困ったように、しかし柔らかに笑う。

「オーリスの食事は私等にはわかんないから何も言えないけど、朝夕どっちかくらいはシャトも一緒に食べないか?」

シアンに言われてシャトはやや表情が強張らせ、一度何もない方へと視線を向けたが、小さく頷き、

「朝は出来るだけご一緒します。…調理も私が」

とシアンの瞳を覗き込んだ。

「うん、助かるわ。カティーナは朝早いんだけど、私は朝はあんまり得意じゃないんだよな」

「ご迷惑でなければお手伝いはいくらでも。簡単なことしか出来ませんが」

シアンもカティーナもシャトの言い出したことを止める事は無く、そのうちにまた歩き出す。

「街道沿いは影響なさそうだって言ってたんだよな?」

「ええ、街道から外れなければ問題はないと思います」

「シャトが描いた絵、あれは何だったの?」

「嵐の中で出会ったそうです。危険はないとは思いますが、少なくとも何かしら影響を受けているはずですから、見かけても近付かない様に、と街の方々に注意喚起だけはしておくとゆうことでした」

「ふーん」

「今日は日暮れまでに次の街に付きそうにないですから、夜は一応、いつもより周りに気をつけることにしましょう?」

 

シャトが言ったように日が傾いても街の影は見えず、三人は手頃な岩場を背にするように野営の準備を始めた。

嵐の影響があるとゆう地域からは離れているが、泊まった街と比べると格段にその場所に近付いているとゆうこともあり、夜はオーリスも含め二人ずつで見張りに着くことになった。

夕食の調理を始めようとゆう頃、シャトはオーリスとその場を離れ、食事が終わってしばらく、空が真っ暗になってから戻ってきた。

「じゃあお先に失礼します」

いつもとは違い、簡単な骨組みに張った幕の中に戻るシャトに『おやすみ』と答えたシアンは近くで休んでいるオーリスを眺め、横にいるカティーナに出来るだけ小さな声で話しかける。

「オーリス、あれでいいのかな?」

「昨日も外で休んでらしたようですよ?」

「今までもそうだったけど、なんか、見えるところに居ると気になるな」

シアンは空を見上げ、雨は降らないよな、と周囲をぐるりと見回すと改めてオーリスを眺め、ゆっくりと波打つ毛並みの暖かさを思い出しながら、指先に小さな炎を点しては消す、とゆうことを繰り返していた。