ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

呼び声

外から来た者から直接話を聞いた訳ではないようだったが、男は幾人かから聞いた話をまとめて話す。

街にやってきた一行は、商人でもなければ買い物が目的で街を訪れるつもりがあったわけでもないらしく、街道のそばに倒れていたとゆう子供を含む数人の獣人を抱えてやって来たそうだ。

運び込まれた獣人達には目に見える大きな怪我はなく、何故倒れているのかも判らず、地図を頼りに街まできたとゆうことらしかったが、先に戻った客の話に出た嵐や傷つけられた等とゆう話は男の口からは出てこなかった。

オーリスの言う嵐、客の言う傷、そして今男の話…人の多さ故か、何が起きたのかを把握することが難しいようだった。

「運び込まれた方々は東通りの水鏡に、運んできた方の方々は会所で話を聞くことになったらしいのですが、東通りも商会の近くも人が多くて近付けなくて…」

 

水鏡とゆうのは離れた土地との通信を請け負っている一種の商売で、それを営む魔術師の通称にもなっている。

営む魔術師が肉体の回復を得意とする大地や水の力を持っているため、魔術に寄った文化の中、医術とゆうものの発展がないに等しいノクイアケスでは怪我を始めとした肉体の不調の際に頼る場所の一つでもある。

 

「近付けないってことはどの話も間に何人入っているか判らないわね…。会所を使うならあとで話は回って来るでしょう、確かなことがわかるまで街を離れない方がいいと思うわ」

女将は主人と顔を見合わせ、簡単にこれからのことを打ち合わせるとそれぞれが動き出す。

先に戻っていた客達は、あとから戻った客を捕まえてはどんな話が飛び交っているのかと口々に尋ねて留まらせ、騒ぎを避けて立ち寄ったのだろう新たな客が入るようになった宿の食堂は段々と人が増えていく。

少なくとも街のそばで嵐が起きている訳ではなく、今すぐに街を離れる必要は無い、とゆうのが周囲で一致した意見らしかったが、シアンは『とりあえずカティーナのとこに行くか』と階段を目指し人の波を越えようとシャトの手を引いた。

「この街の水鏡の腕は確かなのか?」

東通りの水鏡は六枚だから力は強いよ、ただ、診る事に関しては当てにしないほうがいい。頼るなら北の水鏡だ」

「会所には誰が行ってんだ?」

「市の責任者辺りだろう、何かわかればじきに知らせが回るさ」

周りから聞こえて来る話をちょこちょこと拾いながら二階へ上がると、シアンはカティーナの部屋の扉をノックした。

「どうぞ」

「よ、ただいま。下で騒ぎになってんのに何してんだ?」

大きな布を広げ、あちこちに印をつけていたらしいカティーナは

「お二人が戻られるまでの時間を新しく買った布でローブを仕立てるのにあてようかと思って…何かありましたか?」

と騒ぎのこと等どこ吹く風といった様子でシアンを見返す。

「東、これから向かう方で嵐が起きたかもとさ」

「嵐ですか…?」

シアンに続いて部屋に入ったシャトは『今街道沿いの様子をオーリスが見に行っています』といつの間にそんなことを頼んでいたのか、開いた窓の近くへと寄ると街から聞こえて来る音を気にしながらも東の空を仰いだ。

「ただオーリスだけで戻ると騒ぎが大きくなりかねないので、近くまで来たら迎えに出ようと思って…」

「シャトちゃん! ちょっと下りて来て!!」

窓に寄ったシャトの姿が見えたのか、女将は大きな声でシャトを呼ぶ。

一瞬、朝のシアンの様に窓からそのまま飛び出すのかとゆう動きを見せたシャトだったが、ぴくん、と耳の辺りを動かすとぴたっと動きを止め、ややぎこちない動きで振り返るとカティーナとシアンに小さく頭を下げ、女将の元へと向かって行った。