ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

騒ぎ

シャトが子供達と街へ戻る途中、東から街に向かって何かを抱えたような人間らしい姿がいくつか勢いよく走っている姿が目に入った。

「何だろうねぇ?」

「買い物にきた感じではないみたい…。何があるかわからないし、心配かけるといけないから早く戻りましょう…? オーリス」

シャトは子供達をオーリスに乗せると並んで走り出したが、そのうちに市の賑わいとは別に、街の中から騒ぎ声が聞こえて来た。

"嵐"

「えっ?」

シャトはオーリスの方を向き、不安げに眉を寄せる。

「皆、少しスピードを上げるから気をつけてね」

シャトはオーリスの風を背に受ける事で、魔力を扱えない人間とは思えない速さで走る。

「シャトちゃんはやーい」

「すごいねぇ!」

無邪気に笑う子供達を連れて宿へと戻ったシャトはいつもと変わらない様子の女将に耳打ちをし、女将は驚いたように目を丸くしたあとで眉をしかめ、雇っている若い男に騒ぎの様子を見てくるようにと送り出す。

「近いの?」

「いえ、距離はあるみたいです。駆け込んできた方々が何かを抱えていたのは見たのですが、それ以上のことは私には」

子供達をオーリスに任せた二人が主人も交えて話しているところに、何を買ったのか、大きな袋を抱えたシアンが帰ってきた。

「お帰りなさい」

「どうも。街の方、何かあったみたいですけど、話聞いてますか?」

「今様子を見に行って貰ってるところ。オーリスの話じゃどこかで嵐が起きたらしくて、何かそれに関連して外から人が来たみたい」

「…嵐…」

北での事が過ぎったのか、シャトを見たシアンだったが、何を言うかを考えた末に『カティーナは?』と尋ね、シャトが首を横に振るとシャトと揃って今度は女将に顔を向ける。

「さっき桶を片付けるの手伝ってくれてそのあとはまた部屋の方だとおもうけど…?」

「どうする?」

シアンのその質問が"いつ街を離れるか"とゆう意味だと理解したシャトは、

「嵐の様子がわかるかも知れませんし、少し待ちましょう」

と、離れた戸口に視線をむけ街の様子を窺っているようだった。

 

様子を見に行った若い男が戻る前に、宿に泊まっていた客のうち、騒ぎを避けようとした数人が戻ってきた。

やや曖昧な話ではあったが、その客達は街にやってきたのは亜人を含む数人で、抱えられていたのは嵐にのって外から来た何者かに傷つけられた子供のようだ、と教える。

「様子見に行くのか?」

シアンはシャトの顔を窺いながら尋ねたが、シャトはその問い掛けに難しい顔で首を横に振った。

「街には回復や治療を得意とする魔術師の方々のほかに薬師の方もいらっしゃいますし、今日は外からも人が入っています。数が多い訳でないなら私が行っても邪魔になるだけですから…」

シャトのその顔は怪我をしたらしい子供を心配しているように見えるが、その端には何か別のことを気にしているようなそんな影がある。

しかしそれに気付く者はいないらしく、皆が戻った客を中心にして嵐の様子を心配しているようだった。

それから間もなく『戻りました!』と大きな声を上げながら宿に走り込んできた男に全員の視線が一斉に集まり、一呼吸置いてその男は見聞きした話を順を追って話し出した。