ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

会話

ティーナとシアンはシャトの後を追うように少し遅れて部屋を出て、階段の途中から下の様子を窺う。

宿の入り口に立つシャトは握手をするように外から伸びる浅黒い肌の手と自分の手を繋ぎあったまま何か言葉を交わしているようだった。

ただ大陸には握手をする習慣がないために、他の者達の目にその様子は何か妙な儀式のようにも映っているらしく、二人の様子を目の端でちらちらと窺いつつ話を聞き漏らすまいとしているのか会話の音量は下がっている。

「わかりました。後でお伺いします」

「よろシくお願いシまス」

 二人が交わしたのは簡単な挨拶と特別何でもない世間話だけで、今回の騒ぎについては一切口にしなかったために他の客達は段々と自分達の話に戻っていき、最後の挨拶の頃になると耳を傾けている者はいなくなっていた。

二階に戻ろうとしたシャトは階段の途中の二人に気が付くと少し視線が揺れたが、改めて二人に視線を戻すと『少しいいですか?』と並んで階段を上がり、扉が開いたままになっていたカティーナの部屋へと入る。

「どうしたの?」

「今いらしていた方、私も初めてお会いしたのですが、この街に住まわれている獣遣いの方なんだそうです」

シャトは外に漏れないように気遣かっているのか押さえた声で話す。

「今回運び込まれた言葉が通じないとゆう獣人の方達に話を聞くために呼ばれて、少し話されたそうなのですが、私と…とゆうか自分以外の獣遣いと話をしたいとゆうことで尋ねていらしたそうです。これからお宅に伺うのですが、よろしければご一緒していただけませんか?」

「…そんな話いつしたの?」

シアンは聞いた限りの会話にそんな話はなかったはずと訝しんでいるのか、シャトの目を覗き込んだ。

シャトはその目から逃れる様に顔を背けたが『他の方に分からないように話すのは獣遣いなら誰でも出来ますから』とより小さな声で答えた。

「そうゆうもんなのか…」

「ご一緒することは構いませんが、相手の方に私達のことは話されたのですか?」

"分からないように話す"とゆう言葉の意味を考えているシアンの代わりにカティーナが答えたが、獣遣いの家を訪ねるとゆう事と傭兵団の陣を訪ねた事を重ねているらしく、突然何のかかわりも無い者が付いていって構わないのか、と気にしているらしかった。

「伝えてはいませんが、たぶん、北の時の様に私達には分からないことがあるので…。その時にはお二人に頼らせていただけたら、と思ったのです。そうなるなら始めからきちんとお話をしておくのが…筋、かと…」

シアンもカティーナも少し驚いたような顔でシャトを見つめたが、次の瞬間シアンはふっと笑みをこぼした。

「…私、何かおかしなことを言いましたか…?」

「いいや」

どうやらシアンは、以前なら迷惑をかけたくないと言っていたであろうシャトが自分からそういい出したことが、嵐や他の獣遣いのことと、考えていた分からないように話すとゆう方法の事と合わせて意識の端を濃く染めたらしかった。