ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

内緒話

村を抜けた一行は分かれ道にさしかかると足を止めた。

北東へと向かう道は大きな岩を避けるように南に伸びていることに加え、あまり人の行き来が無いのか道幅も狭く、太い街道にそって北に向かうと見落とすとシャトが言っていたのがよくわかる。

「私等は南だからここまでだな」

それぞれの道を眺めたシアンに続いて、マチルダとアーキヴァンが礼の言葉を口にしたが、何故かそのあとでカティーナとシアンから少し離れた場所にシャトを呼ぶ。

 

何を話しているのか、マチルダが真剣な顔で何かを口にすると、アーキヴァンと揃えて深く頭を下げ、シャトはその動作に首を横にふり、困った顔で答えているが、顔をあげたマチルダの表情は曇っていて、シャトは困った顔のまま微笑む。

それからまたマチルダが何かを言うと、その隣でアーキヴァンは微笑んで頷き、シャトも少し躊躇いを見せたがこくんと頷いた。

 

「二人とも気をつけて」

「そちらも。機会があればルスタ・オリウムにも足を運んでみてください」

「失礼します」

二人は頭を下げると振り返ることなく森の中の細い道を行く。

「私等も行くか」

荷車がよく通るのか、深い轍が刻まれた街道を進み始めてまもなく、強い風が吹き、上空から大きな影が落ちたかと思うとすぐにシャトの隣にオーリスが下りてきた。

そのまま甘えるように鼻を鳴らし、シャトに強く擦り寄るものだからシャトは少しよろけてオーリスの頭に覆いかぶさるように身体を伏せる。

「大丈夫?」

「はい、平気…です」

困ったような笑顔でシャトは言い、体勢を整えると優しくオーリスを撫で、歩き出す。

「さっき、何話してたの?」

オーリスの長い耳を手をつなぐように優しく持ちながらシアンが尋ねると、シャトは大きく瞬きをする。

「一人で待っているのはつまらないと」

シアンはその答えに何を言われているのだろうと足を止め、それに気付いたカティーナとシャトも立ち止まり、振り返った。

耳をもたれたままのオーリスはシアンの顔を覗き込み、鼻を鳴らすとその鼻先でシアンのお腹をずんと押し、目を細めてもう一度鼻を鳴らす。

「あ! オーリスか! 違うんだ、マチルダ達と何話してたのかと思って」

「あ…」

シャトは一度視線を下げたが、シアンの目を見て少しだけ寂しそうな顔をした。

「シアンさんも言っていたでしょう? 獣遣いにあまりいい印象はないと、何処でも受け入れられるとゆう訳では無いんです。二人はそのことを気にして…」

シャトは『おいで』とオーリスをそばに呼び、続ける。

「この先、私が獣遣いだとゆうことはあまり口にしないほうが良いと思います。どんな人間が居ようと全く気にしない街も多くありますが、そうでない街もまた多いようですから」

結局、シャトはマチルダ達との話の中身をはっきりと口にはせず、そこまで言うとオーリスを促して歩き出した。

シアンはシャトが何を言わんとしているのかが分かるだけにそれ以上何も聞けず、カティーナも口を開かない。

ただ、二人はシャトオーリスを挟むように足並みを揃えた。