ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

「ルスタ・オリウムってどんなとこ?」

「私達が住んでいるのはルスタ・オリウムの中でもイラミジャと呼ばれる街です。国の中心のようなところで、穏やかですが賑わいのある街です」

「あぁ、そっか、ルスタ・オリウムってただの街じゃないんだっけ」

 

この大陸の中には"国"を名乗る地域が三つある。

そのうちの一つがマチルダとアーキヴァンの住んでいるルスタ・オリウム、"名を持たぬ盾"と呼ばれる宗教の長が国の象徴であり、国民の多くは名を持たぬ盾の信者で、統治の仕方や法に至るまで宗教の軸である赦しと護りが徹底されている。

二つ目は中央部と南方とを隔てる山岳地帯の一角に存在するウイリアス王国、その名の通り、水龍が祖と言われる王家が代々その力により悪しき者を遠ざけ治めていると言われ、国民の多くは生活の安寧を求める者で占められている。

三つ目は南方の海沿いに広がるイヌ・オウグネア、商品にならないモノは無いと迄言われるこの国は大きな二つの湾を囲むように点在する商業都市が互いの利を求めて作り上げた連合国で、古い時代には他の大陸との交易の玄関口としての役割を担っていたとゆう。

 

イリアス王国では身分が大きな意味を持ち、イヌ・オウグネアでは命ですら商品になる。

南方を回っていたとゆうシアンはイヌ・オウグネアとウイリアス王国については多少なりとも知識があるらしく、そのイメージをルスタ・オリウムに重ねようとしているらしかったが、マチルダの言葉がそれを大きく覆す。

「ルスタ・オリウムの住人の多くは他の地域で迫害を受けた者とその子孫だと言われています。いわれの無い迫害を受けた己の境遇を赦し、自分の手の届く者を護ること、名を持たぬ盾はそうして始まったそうです。…我々もそうありたい、そうあろうと足掻いています」

綺麗に口角を上げたマチルダとそのとなりで微笑むアーキヴァン、シアンは何となく、この二人にも何かがあったのだろうな、と思いながらもその国のあり方に興味を持ったらしかったが、その話を後ろで聞いていたシャトの口数は相変わらず少なく、何故かカティーナは苦い顔をしている。

そうして歩くうちに村に差し掛かり、雑貨店なのか何やらごちゃごちゃと食料から端のかけた茶碗までが並ぶ店から出てきた一人の老人がシャトを見るなり歳の割に素早い動きで駆け寄って来た。

「シャト、次はいつ街に出るんだ? 今日はオーリスは一緒じゃ無いのか? 今回は爺が来たが、わしはあれは好かん」

「すみません、私はしばらくお休みなんです。今度は父が来るはずですから、何かあればその時に」

シャトは挨拶もそこそこに一息に言った老人をいたわるような柔らかな声を出すように努めている。

「レイナンもつまらんものしか買ってこんからな…シャトが一番なんじゃが。また修業にでも出るのか?」

「知り合いを訪ねに行くんです」

「オーリスに乗ればすぐじゃろうに」

悪気の無い老人の言葉だったが、マチルダとアーキヴァンは微かに曇ったシャトの表情と合わせて何かに気付いたらしかった。