その夜
マチルダとアーキヴァンはルスタ・オリウム、大陸の中央部の一角、北方の山を背に大きな湖を望む"国"の生まれだとゆう。
ルスタ・オリウムは護りと赦しを軸とする宗教国だが、シアンはそれを知らないのか、それとも知っていて口にしないのか、当たり障りのないことを話しながらのんびりと歩いている。
会話の中心の二人がいつの間にか横に並び、いつもにまして口数の少ないシャトと、いつもながら聞き手に回っているカティーナ、そしてあまり人と話すのが得意ではないらしいアーキヴァンの三人が後ろから付いていく。
時々話の流れでアーキヴァンやシャトが口を開くことを続けるうちに、二人の間でもぽつりぽつりと会話が交わされ、夕方になる頃には五人でいることの違和感が薄れていた。
もう少し歩けば村につくとゆうところだが、シアンとカティーナは普段からあまり宿に泊まることはないらしく、シャトも野営に慣れている。
宿のある村のそばでの野営はあまり歓迎されない事から、適当な場所で休むとゆう三人の話を聞いて、マチルダがアーキヴァンに顔を向けると、アーキヴァンはこくりと頷く。
「私達もそばで休ませてもらって構いませんか?」
「人が多ければそれだけ見張り楽だし、いいんじゃない? なぁ?」
そのまま五人で動くことが決まると、シャトは少し道から外れた場所に涌き水があると言い、一行はシャトの案内で森の中へと入っていった。
「あれ、シャトは?」
それぞれが幕を張り終え、夕食の準備にかかろうかとゆうところで、シアンは辺りを見回した。
幕は張られているものの、何処へ行ったのか荷物もなくなっている。
「少し出てくるそうです。食事は気にしなくていいと仰ってました」
カティーナだけはシャトがこの場を離れる前に言葉を交わしたらしく、そう言ってシアンが手にしていた鍋を受けとると、そのままシャトが話していた涌き水を汲みに坂を下っていく。
「なんだよ、どこ行ったのさ…」
「シャトさんはこのあたりの方なのですか?」
「この辺はこの辺か。住んでるのは道のずっと先だけど…」
首を捻りながらも荷物から干し肉を出すシアンに、マチルダは麦や塩を渡してもう一つ持っていた包みを開く。
中には卵が入っていて、マチルダは髪をまとめながら『スープでも作りましょうか』と、坂の下を覗きに行くがカティーナの姿は見えないらしくそのまま戻ってきた。
「知り合いのところにでも行ったかな…」
カティーナと入れ代わりで坂を下りた二人は涌き水で手を洗い、もう一つの鍋に水を汲むと日が暮れる前に食事にしてしまおうと足早に戻っていく。
麦と干し肉を煮込んで卵を落とし、沸かした湯でお茶をいれる。
木の実や焼き菓子、果物を持ち寄った食事が終わっても、シャトは姿を見せなかった。
「戻って来ないな」
食事のあとで暗くなる空を見上げながら二杯目のお茶を飲んでいたシアンは、背後から聞こえた音に、腰のナイフに手をかけたが、ひょこっと姿を見せたのはシャトで、『なんだ、どこ行ってたの?』とちょっとだけ不機嫌そうな声を出す。
「ちょっと…。すみません」
すまなそうに頭を下げたシャト、シアンはお湯を沸かし直すと他の三人にも声をかけ、改めてお茶を淹れ直した。