ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

五人

「昔から知ってるの?」

森の中を歩きながら、シアンは肩越しにアウェイクの方へと顔を向ける。

「家としては長く出入りしています。アルナさん達とは時々行ったり来たりして…町に出るついでに買い物を頼まれたりとか、そんな感じです」

『ふーん』と相槌を打ったシアンは、昨夜の魔獣のことを口にした。

「回復にはしばらくかかると思いますが、アルナさんを始め傷を治せる方が何人も力を貸してくれたので、大丈夫です。もう少し落ち着いたらしばらくは家で様子を見てくれる事になったので、村のほうも心配ありません」

「そんなこともしてるんだ」

シアンの言う"そんなこと"は傷ついた魔獣の保護を指していたのだろうけれど、シャトには伝わらなかったのか、シアンの顔を見て首を傾げている。

 

並んだシャトとシアンの数歩後ろを歩くカティーナは、俯き、何かを考えているのか、シアンが名前を呼んでもしばらく応えなかった。

「カティーナ?」

何度目かの呼びかけでやっと気付き、顔をあげたカティーナは『なんでしょうか?』とシアンとシャトを順に見て、何故かほっとした顔をする。

「大丈夫か?」

「特に何もありません。大丈夫です」

「ならいいけど…無理するなよ」

まだ身体が本調子じゃないのだろう、と解釈したらしいシアンは『荷物持つか?』と尋ねてながら手を出したが、カティーナは『大丈夫です』と先に立って歩き出す。

「綺麗でしたね」

ティーナはアウェイクの祭を話題にあげ、精霊の姿を探してでもいるのか、ゆったりと歩きながら森の奥を眺めているが、その顔は心なしか雲っているようだった。

 

道で出会ったふたり連れを案内した村にさしかかると、何処からともなく声がかかり、三人が声の出所を追うように辺りを見回すと、銀髪の女性…マチルダが道からは一段下がった井戸の側で三人に向かって手を上げていた。

「無事だったんですね」

どうやらちょうど村を離れるところだったらしいが、三人が近付くなりそう言って口角をあげて水を汲んだ水筒に栓をする。

半分マチルダの陰になるように立つアーキヴァンも安心したといった風に、首を傾げるようにして前髪の奥に隠れて見えない瞳を細めているようだった。

「無事って何が?」

「昨日の夜、空に光りが上がっていたでしょう。先程、村の方に尋ねたら魔獣が出たのだろうと」

「あぁ、それでか」

 口調も振る舞いもぴしっとしているマチルダと、どちらかと言えば粗野ともとれる言動を見せるシアン、対照的な二人だが、どちらも社交的とゆうことなのか、他の三人にも話を振りながら、いつの間にか五人が連れだって歩いている。

「昨日は助かりました。もちろん野営が出来る用意はあるのですが、やはり気の張り方が違いますから」

「ずっと二人なの?」

「いいえ、仕事で南へ行った帰りなのですが、行きは他に二人。南での仕事が長引いて居るようで、私達だけ先に」

シアンとマチルダのあいだで行き先が話題に上がると、振り返ったマチルダ

「村を抜けた先に分かれ道があると仰っていましたね」

とシャトに振る。

「えぇ。南から来ると見落としやすいみたいです。お二人のようにルスタ・オリウムへ向かおうとして、間違ってこちらの道に入ってしまう方が時々…」

チルダは"はて"と首を傾げ、シャトに尋ねる。

「私達もルスタ・オリウムへ向かうと?」

「飾りの付いたレイピアには見覚えがあります」

チルダは自分の腰に下がったレイピアに手をかけ、納得したように頷く。

「ルスタ・オリウムに立ち寄られたことがおありですか?」

「一度だけ」

シャトはそれ以上のことは口にせず、話を切るように微笑んだ。