見送り
「そぅ…寂しくなるわね。あの子達には?」
「まだ話してません」
「クルルルッ」
「はい」
レノとアルナ、そしてシャトの三人は、家に戻り、遠くから響く賑やかな声を聞きながら静かに食事をしていた。
「まだまだ自分は若いつもりでいたけど、そんなことないわね。あの子達が大きくなるはずだわ…」
頬杖を付いたアルナはため息をついたかと思うと、戸口に向かって笑いかける。
シャトが振り向くとそこにはシアンが立っていて、『どうも』と首を下げながら中に入ってきた。
「楽しめた?」
「はい。歌って踊って…こんな祭は久しぶりでした」
「そう、よかったわ…。急ぐのでないならもう少し泊まってく?」
アルナに尋ねられ、シアンはシャトを見たが、どちらでもいいとゆうことなのか、シャトは微笑むだけで何も言わない。
「急ぎではありませんが、行く先がありますから。お気持ちは嬉しいのですが」
「残念だわ。もっとお話できたらよかったんだけど」
レノに『ねぇ?』と顔を向け、アルナは本当に残念と思っているようで、寂しそうな顔をする。
カティーナが戻るのを待つ間、アルナはお茶を飲みながらシアンとお喋りを続け、シャトとレノは時々言葉を交わしながらそのお喋りを聞いている。
「「ただいまー」」
声を揃えたジェナとシャールから少し遅れてカティーナも姿を見せ、シアンと二人、庭に吊ったままの幕を片付けに行った。
まだ聞こえている賑わいに耳を傾けながら外した幕をくるくると丸めていると、家の中でジェナとシャールが何かに声を上げたようだったが、それから何かが起きる訳でもなく、カティーナもシアンも一度止めた手をまた動かして小さく巻かれた幕を荷物に詰め込んでいく。
片付けを終えた二人は荷物を抱えて家の中に戻ったが、なぜかそれまでとは違い、ジェナとシャールは二人のことを見ようとせず、しばらくすると家の奥へと消えて行った。
「まったく、中身はまだまだ子供なんだから。二人ともごめんなさい、気にしないでね」
俯いたシャトを見て、シアンは何かに思い当たったようだったが、それを口にすることはなく、三人はアルナとレノに送られて村の入口の橋に向かう。
「またね」
アルナはシャトを強く抱きしめ、レノは身体を折るようにしてシャトの頬に顔を寄せる。
「アルナさん、レノさん、ありがとうございました」
「お世話になりました」
挨拶が済んでもなかなかシャトを離さないアルナにレノが優しく声をかけ、シャトには『身体に気をつけて』と目を細める。
オーリスはまた後から追って来るらしく、三人だけで改めて頭を下げて橋を渡ろうとした時、村の上空にぱっと大きく一輪の花が咲いた。
どうやらジェナが作り出した闇の中にシャールが光で咲かせたらしいその花はシャトに向けられた物のようで、アルナは呆れたように、
「そんなことするくらいなら見送りに出て来たらいいのに」
と腕を組み、レノはそんなアルナをたしなめるかのように小さく鳴く。
闇が薄くなり花が空に溶けるように姿を消すと、アルナは、仕方がないなぁ、と言うように笑う。
「みんな元気でね、機会があったらまたいらっしゃい」
手を振るアルナに応えた三人の姿が木々に遮られ分からなくなった頃になってジェナとシャールが姿を見せ、ふて腐れた様なその顔にアルナが二人を小突く。
「なんて顔してるのよ」
「だって…」
「…ねぇ?」
「会えなくなる訳じゃないんだから」
そう言って歩き出したアルナに促されるように、レノもジェナもシャールもシャト達が歩いて行った森に一度視線を送り、まだ賑わいの残る村へ向かって足を踏み出した。