ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祭の前夜

アルナはクラーナから届いたのだとゆう野菜を使ってシアン達の分まで夕食を用意していた。

所々に魚や小さな蟹が見えるのが、川に囲まれた村らしい。

シャトは未だ魔獣の元にいるらしく戻っていなかったが、アルナは"シャトの分はとってあるから気にしなくて大丈夫"とそれぞれの皿に綺麗に数種類の料理を取り分けた。

テーブルには四人分の食事が並び、レノとアルナを除く四人がその周りに立っている。

 「椅子はあるから座って」

とは言われたものの、シアンは結局立ったまま食事を始めた。

「座ればいいのに」

ジェナ達はそう言うが、そうでなくても背の高い二人を椅子に座って見上げるように食事をするのは落ち着かないらしい。

すぐ隣に広げられた金色の翼を見ながらシアンは始めて祭のことを口にした。

「この村の祭ってどんなことするの?」

「んー、別に変わったことはしないかな…? ねぇ?」

「んー、たぶん? よその祭をあんまり知らないから何とも言えないけど」

「ただ空が白む前に始まるから、見るつもりなら早く寝た方がいいかも」

祭は年に一度、十番目の月、一度目の闇の日から八日間行われるとゆう。

一年の恵へ感謝し、一年の安全を祈る、儀式的なものをぎゅっとひとまとめにしたような、と言った後で『見物人が来るとすれば明日くらいなものよ』と教えた。

 

食事を終えてもシャトは戻らず、様子を見に行こうかとシアンは戸口から外を覗いていたが、結界があるのだろうか、とジェナ達を探して庭に出た。

「シアンさーん?」

窓から顔を覗かせたジェナはきょろきょろとするシアンに声をかけ、その部屋から外へと通じる大きな扉を開く。

通路になっているらしい一部を除き、部屋の中には干し草が敷き詰められ、それを、押さえるように粗く織られた布が張られている。

そこに寝転がっていたらしいシャールは上半身を起こして肩越しに外を見て、シアンに手を振った。

すでに庭には二枚の幕が張られ、カティーナはその片方の端に腰を下ろしていたが、ジェナはシアンに『泊まってく?』と部屋の中を示す。

「今日はシャトたぶん戻って来ないから、場所はあるわよ」

「戻らないのか?」

「たぶんね。優秀な護衛が居るから大丈夫よ」

ジェナはオーリスの事をそうゆう風に表現して、

「心配なら見に行く?」

と尋ねながら、身体を屈めてシアンの顔を覗き込む。

「いや、大丈夫だってゆうならいいや」

気にしすぎるとシャトが気にするだろう、と、シアンは『おやすみ』と自分の幕へと戻って行く。

辺りにアルナやレノの姿は見えず、カティーナにシャトは戻らないらしい、とだけ伝えるとさっさと幕の中に入って横になる。

北での事を思い出しながら、シアンは"また眠らないんだろうか"とシャトの事を考えたが、とにかく寝ようと目を閉じた。

しかし、結局寝付けずに、辺りが静まり返った真夜中になって起きだし、村の中を抜けて川を越え、ジェナが魔獣に向かっていた辺りから木々の向こうを覗くように目を凝らす。

明かりはついていないが木々の向こうには微かに白く大きな影が見え、シアンはオーリスだろうか、としばらくその場で様子を窺う。

「大丈夫だよ」

ふと聞こえたシャトの声に"自分は何をしてるんだ"とこめかみを掻くと来た道を静かに戻っていった。