姿 形
「シャト来たよー」
シャールが家の戸を開けて声をかけると、とたとたと走る足音とともに一人の女性が現れ、シャトをぎゅーっと抱きしめた。
「いらっしゃい! もぅ、来ないのかと思ったわ」
シャトとそれほど変わらない背丈に、襟足で一つにまとめた一見すると黒と見間違うほどに濃い色の青い髪、こげ茶色の瞳のしたにはそばかすが散っている。
「アルナさん痛いです」
苦しそうなシャトの声に抱きしめた腕を解いたアルナは楽しそうに笑い、シャトと後ろに立つシアン達を『いらっしゃい』と家に招き入れた。
「レノさん、具合はどうですか?」
「おかげさまで良くなったみたい。レノー! シャト来たわよー」
アルナの呼びかけに『グルァ』と鳥のような低い声が答え、布を引きずっているような音とかっかっと硬いものが床に当たる音が奥から近付いてくる。
「グルルルァ」
「お世話になります。手、どうですか?」
「グルカッ」
「よかった。オーリスの運んできた荷物に薬が入っているはずですから、傷が出来た時にはちゃんと使ってくださいね」
「グルァグルルルルクァ」
大きく開け放たれていた裏口からシャールと共に家に入ってきたジェナは、
「シャト、後ろ、驚いてるわよ」
と、呆れたように腕を組んでいる。
全身、とゆう訳ではないが、レノの身体は羽毛におおわれ、口元には嘴、翼でも人間の腕でもないものをずるずると引きずるように歩くその足はほぼ鳥のそれで、ふと横を向いた時に見えた腰元には翼のなりそこないの様な妙な形の何かがあった。
獣人や亜人と呼ばれる者達であっても、その大部分は北のイマクーティのように種として固定されたもので、レノ、ジェナ、シャールの三人のようにそれぞれに違った特徴を持つものは少ない。
「すみません、ジェナさんとシャールさんのお父さんのレノさんと、お母さんのアルナさんです」
「そうゆうことじゃないと思うけど…?」
首を傾げたシャトに、ジェナとシャールは可笑しそうに笑い、『着替えてくるわ』と奥に消えた。
「グルルルルク、クカッグルルル」
「あ、はい。右がシアンさん、左がカティーナさんです。以前お世話になって、家を訪ねてくれたんです」
「グルァククルグァ」
レノはお辞儀をするように身体を倒し、目を細めて優しい眼差しを二人に向けた。
「えっと、シャト、レノさんなんて?」
「驚かせてしまって申し訳ないと」
「あ、いえ…突然お邪魔して申し訳ありません」
「クルルルルルラッ」
「くつろいでください」
ここまで来る途中で、シアンは"また世話をかけるのではないか"と心配していたが、アルナはそうゆう部分に気を遣ってくれているのか、好きなところで休んでいい、と三人を庭の方へ案内する。
庭にはすでにオーリスが居て、シャトの姿を見ると嬉しそうに鼻を鳴らす。
「家の中でも構わないけど、うちの寝部屋はちょっと変わってるの、後で覗いてみるといいわ」
そう言ったアルナはジェナとシャールを呼び、二人が窓から顔を出すとシアンの手を引いて、
「お風呂空いてるみたいだから、シアンさんと一緒に行ってらっしゃい」
とそのまま桶やら何やらを持たせ、半ば強制的にシアンを表に連れていく。
「えっ、シャトは…? ねぇ!」
普段は物怖じしないシアンだったが、あまりの展開についていけないのか、手を引かれながら首をひねってシャトに助けを求めているようだった。
しかしシャトは手を振って見送り、カティーナへと向き直る。
「ここにも湯舟やシャワーがありますから、遠慮せずに使ってくださいとのことです。傷、何か薬が必要そうなら声かけてください」
カティーナはシャトの声を聞きながら、珍しく慌てたような顔を見せたシアンの消えた先に視線を送っていた。