ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

アルナに連れられたシアンが家の前まで来ると、後ろからジェナとシャールが並んで歩いてきた。

先程までの足先まで隠れる裾の広がったワンピースと比べるとずいぶんとラフな装いで、翼は元より、膝下丈のズボンから見える足に自然と目が行く。

足先に鋭い爪があることは分かっていたものの、レノと同じで鳥の特徴を受け継いでいるその足は、人間から見ると関節が一つ増えたようにも感じられる。

「…綺麗だな」

ぼそっと呟いたシアンに、ジェナもシャールも"妙なことを言う"とでも思っているのか、眉をひそめていたが、

「珍しいことを言うわね」

と特に気を悪くした様子もなくシアンの腕を取った。

「村の外から人が訪ねてくるなんてそう無いけど、この足を見て"綺麗"って言ったのはシャトとクラーナさんくらいよ」

「大抵は驚いて黙っちゃうのよね。あなたが父を見たときみたいに」

シアンは諦めたように腕を取られたまま歩きだし、『行ってらっしゃい』と手を振るアルナに肩越しに頭を下げる。

「…普段はその格好なの?」

「夏のうちはね。さすがに寒くなったらそこそこ着込むけど」

「さっきのが普段着なのかと思った」

「あんな動きにくい服普段から着てられないわ」

「あれは基本お祭り用、直しが終わったから着てみてたの。まぁ、他から人が来るときに雰囲気作りと威圧を兼ねて着ることもあるけどね」

ジェナがそう言うとシャールも頷き、時々ジェナ達三人の事を噂に聞いて良くない輩がやって来たりもするのだと教えた。

「この格好ならこの格好で威圧にはなるけどね」

と二人は足を持ち上げて笑う。

二人に対しての抵抗感はいつの間にか薄れたらしく、シアンはその足や二人の服を眺めている。

ワンピースの時もそうだったが、羽を避ける為に背中が大きく開いていたり、服に切れ込みが作ってあったりとあまり見ないデザインの服は二人の身体に合わせて作られているのだろう。

その服を見ているうちに気になったのか、シアンはシャールをまじまじと見つめていた。

翼を閉じているジェナと違い、シャールは家に戻ってからずっと、翼を自分の身体を包むように前で重ね、大きく開くことも閉じることもしていない。

そのことを尋ねるとシャールはととっと、二、三歩前に出て後ろ向きに歩きながら翼をいっぱいに広げて見せる。

「いつもこうしていたんじゃ邪魔でしょう? 私は立っている時は翼閉じられないから…」

シャールは前に向き直り、今度は翼を閉じようとするが、腰からはえた翼を閉じるには高さが足りず、羽の先が地面に触れる直前で止めると『ね?』と振り返りにこっと笑った。

「結構不自由なのよ。翼だけじゃ飛べないし」

ジェナはシアンの腕を放すと翼を大きく広げて羽ばたこうとするが、それはなかなかの重労働らしく、ゆっくりと動く翼は辺りに風を起こしてはいてもジェナ自身が飛び上がることは無い。

「私は風の魔力と合わせて飛ぶの」

「お湯はダメだし」

「石鹸も」

「砂浴びして」

「水浴びして」

「「結構面倒」」

声を揃えて言った二人はくすくすと笑い、広げた翼をゆっくりと閉じた。

そしてぽかんと口を開いたシアンに『お風呂はこの先なの』と言ってそばに掲げられていた魔石の明かりを落とすと、林の中に続く道へと進んで行った。