助けるため
これまで一緒に過ごした時間は長いとは言えないが、カティーナは、シャトは他者が傷付く事を人一倍嫌うのだろうと感じていた。
しかし、目の前に居るシャトは自ら剣を振るい、その剣で切り伏せた魔獣を前に血飛沫を受けた顔で微笑んでいる。
その様に声を失っているカティーナだったが、シャトはそれを気に止めることもなく、砂に突き刺した剣から手を離すと服で手に付いた血を拭い、下ろしたリュックから薬草に瓶に入った薬、布、包帯と次々に取りだし魔獣に寄り添った。
「カティーナさん、手当てのお手伝いお願いしてもいいですか!」
「…え、あ…」
状況を飲み込めないままのカティーナは眉を寄せ、答えに詰まりながらも足早にそちらへと向かい、シャトの動きを目で追う。
シャトは地に伏した魔獣の背と落ちた翼の両方に、何かの薬液なのか、小瓶からぱしゃぱしゃと透明な液体を振りかけていたが、カティーナは隣に立ってはじめてその翼が単なる翼ではないことに気がついた。
「シャトさん」
「布を当てて傷口を押さえてあげて下さい。血が止まったら黒い瓶に入った軟膏を塗って、その上からそこの薬草を貼ってあげて欲しいんです。その上を布で押さえて包帯を…」
シャトは、切り落とされた翼の本来の持ち主らしい小型の魔獣の腰にあたるあたりを押さえながら、カティーナに早口に言うと、『もっと上手に切ってあげられれば良かったんだけど…痛む?』と二体の魔獣それぞれの顔を覗き込んだ。
カティーナには意味をなさない鳴き声にしか聞こえないが、魔獣達もシャトに答え、シャトは続けて『血が止まったら痛み抑えられるようにするからね』と笑いかけている。
大きい方の魔獣の背を強く押さえながら、カティーナは
「シャトさん、このお二人は…?」
と振り向き、シャトの表情を注意深く観察していた。
「嵐に巻き込まれてしまったんだそうです。嵐に気がついてすぐに周りの様子を確かめながら移動しようとその子の背中にこの子が乗って…触れ合ってお互いの事を感じながら言葉を交わしていたせいか、精神に大きな変化は無かったようですが、くっついてしまったらしくて」
「街で描かれた絵はこのお二人ですよね…?」
「はい。運び込まれた方々の中にこの子達の事を見た方が居たのですが、ライマさんがもしかしたら"狂って"居るのではと。ただ、この子達は助けを求めているようでもあって、確信を持つことが出来ずに…」
「狂っているかそうでないか、とゆうのは大きな違いがあるのですか?」
シャトはカティーナを窺う様に大きな瞳でその顔をじっと見つめ、微かに眉を寄せると『狂った者がもたらすのは"災い"だと言われています』と言いにくいことを口にしたとでもゆうように俯いた。
狂獣の血を受けたレノを、そしてその子供であるジェナとシャールを大切に思うシャトにとっては受け入れがたい話のようだったが、俯いたまま、シャトは知る限り"狂った者"についての事をカティーナに話しはじめた。