本心
体力的な疲れでも魔力切れでも無く、ジェナとシャールはただた精神的に疲れているらしい。
魔獣の血で汚れた服を川に晒し、頭から川の水を被るとそれぞれ口を開くことなく湯に浸かった。
成り行きで二度目の風呂に付き合う事になったシアンは、始めのうちこそレノと二人で家に残っているカティーナを気にしていたが、徐々に目の前にいる二人の方に意識が行く。
湯舟の縁に腕をかけ水で濡らした布で仰向けた顔を覆ったジェナ、全身の力を抜き寝湯に身体を預けてぼんやりとしているシャール、二人とも生気が抜けたように見え、シアンは魔獣が現れる度にこうなのだろうか、と心配しているとゆうのとは少し違うが、その様子を静かに窺っていた。
「大丈夫かしら…」
「…たぶんね」
ジェナの呟きにシャールが答え、二人とも大きく息を吐く。
何が、とゆう言葉が足りていないが、どうやら二人とも魔獣の事を気にしているらしかった。
「あんな大きな傷、よく生きてたと思う。何処から来たのかしら…」
「祭が明けたら来た道を辿る事になるんじゃない? 気乗りはしないけどね」
話し出した二人に、シアンは質問を投げ掛けた。
「シャールは剣を持ってたみたいだけど、あれは…?」
傷付けるとか、殺すとか、そうゆう言葉を避けたことで中途半端な質問になった。
「剣? 使う時は使うわよ、気持ちのいいものじゃないけど、狂獣はもちろんただの魔獣でも。抑えが効かない相手ならしかたない、と思うしかないでしょう…?」
"思うしかない"とゆう事は納得はしていない、とゆう事だろう。
「あぁ、そうか…」
シャールは自分の言ったことで何かに気がついたのか、身体を起こしてふっと悲しげな顔になった。
「どうしたの?」
顔から布を外したジェナの視線に微かに微笑んだシャールは、自分の片翼の先に残った焦げ跡を見ている。
「何でもないの。ただちょっと昔のこと思い出しただけ」
"何がきっかけだったか"と考えていたシャールは"村の皆が傷付くくらいなら…"との思いにもう一つ他のものが付随していたことを思い出していた。
本当なら忘れることはないだろうその事を忘れていたのはその方が自身が楽だからだろうか…、村の皆だけでなく、シャールは魔獣が傷付き、時に命を落としていることが辛かったのだ。
それはジェナも同じで、二人で花を手向けに行くこともあった。
その考え方は少なからず魔獣とともに暮らすシャトやその家族との交流の上に積み上がったものだが、そうで無くとも自分達やレノの姿を魔獣に重ねることはあっただろう。
周りの村人達にそんな気はなかったとしても。
シャールは魔獣の事を口にしないまま前線に立つことを提案した為にジェナはそのことを知らない。
シャール達が前に出るようになって、村の被害が減ったのとあわせて魔獣が傷付くことも減っている。
抑えが効きさえすれば、傷付ける必要がないからだ。
落ち着きさえすればその多くは棲み処に戻って行く。
「大丈夫かしら…」
今度はシャールがそう言ったが、その心配は魔獣にではなく、その手当てに向かった幼なじみに対してだった。