ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

道のり

シャトの頭の中を読めるわけでもなく、それ以上突っ込んだ話を聞く気はないのか、シアンは"いろいろめんどくさいんだな"と言いかけて、自分が感じたこととはいえ言葉が過ぎるか、と、思ったらしく、一度口を閉じ当たり障りのない言葉を選ぶ。

「なんか、いろいろ…あるんだな」

シャトは頷くでもなく否定するでもなく曖昧に微笑み、段々と周囲が森と草原から疎らな木々と岩場に変わりつつある街道の先を眺めると『まだまだかかりますね』と独り言のように口にした。

それは目的にしているヴィートのいる街までの道のりを指したものだったが、日頃の行動範囲から出たことでいろいろと気をつけなければならない、と改めて思ったシャトの胸の奥から出た言葉で、その思いを煩わしいと感じているのだろう事が何処か悲しげな声の中に滲んでいた。

「とりあえず、時間がかかるのは別に構わないんだし、シャトずっと眠いんだろ? 今日は早めに場所決めてさっさと寝よう。オーリスもこの子らも居るし、シャトは見張りしないでしっかり眠りな」

シアンはシャトの眠気も気にしては居るようだったが、何より嫌なことは寝て忘れる、とゆうのが信条なのかそんなふうに言って、何かを数えるように指を折りはじめる。

「ジェナの家で一泊、マチルダ達と一泊…」

ぶつぶつと口にしている言葉からここまで何日かかったかを数えていることはわかったが、シャトはヴィートの居る街が何処にあるのかを正確には知らず、今が全体の道のりから見てどの辺りなのかは分からない。

「半月じゃ着かないな…」

今度はシアンが独り言のように言い、今までの道のりを思い返す。

「この先にも知り合いいる?」

「いえ、この先で知っているのは洞窟とあの時の村くらいです」

「そうか。見張りの交代が増えた分宿に泊まらなくてすんでるからいいけど、買い物もしてるし、いつも仕事にありつける訳じゃないからそろそろ少し稼ぎたいな…。ガーダに貰った石って売れるんだっけ?」

「えぇ、どの街でも、とゆうわけにはいかないと思いますけれど、魔術師さんが住んでいる街ならたぶん」

「シャトはお金大丈夫?」

「それなりには…。薬草や薬も売れますし、他にもいろいろ持ってますから」

「そか。カティーナはまだ余裕あるよな?」

「はい、北での頂き物もありますし、すぐに困るとゆうほどでは」

「ふん」

シアンは街に寄る度に何か探すか、と独りで頷きオーリスと並んで歩く魔獣達を眺める。

傷の痛みはもうないのか歩くのには困らず、周囲への過敏な反応も落ち着き警戒も解けた二匹だったが、このままずっと一緒なのだろうか、とふと思ったシアンが尋ねようとすると小さい方の魔獣がまた『しーあーんー』と鳴き、そのあとで『かてにゃ、かてにゃ』と繰り返す。

「かてにゃ?」

「カティーナさんのことです」

シアンとシャトの視線を受けたカティーナは眉をあげた後で首を傾げるようにして魔獣を見つめ、そのまま『お二人のお名前は?』と魔獣達に聞いたのかシャトに聞いたのか、判断のつかない尋ね方をした。