ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ジェナが駆け出して間もなく、青白い光球が二つ空へと打ち上げられ、それが消えるのとほぼ同時にりーん、りんりーん、と鈴の音の様な音が何処からともなく聞こえてきた。

結界の外でジェナや村人達が動いているのは木々の間から僅かに見えているが、周囲に人影もなく、その場にいてもどうなったのかも判らない、とシアンは広場の方へと戻って行く。

聞こえた鈴の音はどうやら警戒を解く合図だったらしく、広場のそこかしこに安心半分、不安半分、といった顔で話している村人の姿が見えているが、それを横目にジェナの家に向かうシアンに声がかかった。

「よかった、姿が見えなかったからどうしたのかと思ってたの」

声の主はアルナだったが、後で食事の用意をするから先に家に戻っているように、とだけ言うとシアンが口を開く間もなく走って行ってしまい、シアンは言葉にしたがって改めて家へと向かって歩き出した。

 

家にシャトとオーリスの姿は無く、居たのはカティーナとレノだけで、どうゆう訳か床に置かれた板に書かれた文字を二人で見下ろしている。

板には"シャトの事は心配ない"と書かれているのだが、カティーナはその板を見下ろしたまま悩んでいるように見えた。

シアンに気付いたレノは足の爪で炭を器用に掴み、空いている場所に"おかえり"と書いて目を細める。

「あ、はい。すみません、勝手に出て…」

"無事ならいい"と書いたレノは近くにあった布で板をこすって文字を消し、"彼は字が読めない?"と書いてシアンを見ている。

「そうです。簡単な言葉と数字位は読めるはずですが」

そう答えたシアンに顔を向けていたカティーナは『シャトは心配ないって』と言われてレノに『すみません』と頭を下げた。

"気にしなくていい"再び書かれた文字をカティーナに伝えたシアンはどうゆう状況だったのだろう、と腕を組み、首をひねりながら口を開いた。

「シャトどこ行ったの?」

「分かりません、アルナさんと何か話してらした様なのですが、気がついた時にはいらっしゃいませんでした」

「アルナさんなら広場で会ったけど、シャトは一緒じゃなかったよ?」

二人のやり取りをそばで聞いていたレノだったが、炭と板を壁際に寄せると翼のような腕を引きずり外へと向かっていく。

レノが外に出た後を追うように戸口から覗くと、薄暗い中なのではっきりとは分からないが全身が濡れているらしいジェナとシャールがこちらへと向かって来るところだった。

二人が家の明かりの届くところまでくると、服から滴るのは水の他にどうやら血で汚れている事が見て取れ、シアンは心配から眉をひそめて外に出た。

「怪我したの?」

「ううん、これ私達のじゃないの。村に向かっていたのはこの辺じゃ見かけない種の魔獣だったんだけど、最初から何かに襲われてたみたいで怪我してたのよ、今村の皆とシャトが手当してる」

「辺りに他の魔獣の気配は無いし、たぶんもう大丈夫」

二人は笑顔こそ見せなかったが、シアンとレノを安心させるように頷いて見せる。

身体についた血は川下で流してきたとゆう二人だったが、

「私達もう一回お風呂行くけど、シアンさんも付き合わない?」

と疲れた顔で口にした。