ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祭壇のてっぺんに飾られた石を通して辺りを照らす朝日を浴びて踊る娘達は、それぞれ白い布とともに響石の放つ光と揃いの紗を手にしている。

「…きれい」

それぞれの精霊を表す鮮やかな色彩にシアンが声をもらすと、それに気づいたのか、ジェナとシャールがウインクしてみせた。

広場に直接朝日が射すと音楽に歌が加わり、広場を囲んでいた村人達も娘達に合わせて踊り出す。

「ほらほら、シアンさんもカティーナさんも!」

ジェナとシャールに手を取られ、踊りの輪に入った二人は、いつの間にか辺りに精霊が溢れている事に気づいて声を上げた。

「すごいでしょ? このあたりの精霊はあまり姿を現さないんだけど、祭のときだけはこんなふうに集まって来るの」

「毎日これを続けるのか?」

「まさか! 今日は闇の日で、夜明けまで、明日は光りの日で夜明けから、次の闇の日は日が沈んでからってなるように、一日ずつ時間をずらして祈りを捧げるけど、こんなふうに歌って踊るのは今日だけ!」

「ほらー踊って踊って!!」

二人に手を引かれたまま、シアンとカティーナは輪の中を行ったり来たり…踊っているとは言えないかもしれないが軽やかな足取りで動き回り、アルナとレノと並んで輪の外に立っているシャトはそんな二人に気づいて小さく手を振った。

音楽が早くなり、精霊を讃える歌声が高らかに響きわたると踊っていた皆が声を上げながら腕を振り上げ、笑い声とともにばらけていく。

「さぁ! 今度は食べるわよ!!」

広場に慌ただしくテーブルが並べられたかと思うと、家々からこれでもかと料理を盛った皿が運ばれ、賑やかに食事が始まる。

「これ、私等も食べちゃっていいの?」

「みんなで食べるのよ!」

「早くしないと食べそこねるわよ?」

他の三人に引っ張られるように後を付いていくカティーナはシャトの姿を探して居るらしかったが、先程まであったはずのシャトの姿も、レノとアルナの姿も広場には見えない。

「シャトさん達は…?」

ジェナはカティーナに飲み物の入ったカップを渡しながら、『家の方じゃないかしら』と言って皿に料理を取り分けると、それもカティーナに差し出す。

「うちの親と一緒だと思う。母さんが話したがってたから、今は譲ってあげて」

その笑顔に違和感を覚えたらしいカティーナだったが、皿を受けとると、比較的静かな輪の外に出て、周りを眺めながら一人で料理を食べはじめる。

しばらくするとシアンが隣にやってきて、何かの串焼きをかじりながら『賑やかなの苦手か?』と尋ねた。

「苦手、とゆうことはないのですが、あまり経験がないので。見ているのは好きでした」

「ふーん」

聞いてみただけ、とゆうことなのか、それ以上何かを言うつもりはないらしく、シアンは黙って串焼きを食べ終えるとそのままその串で皿の上の料理を口に運ぶ。

「そろそろ戻るか?」

まだまだ広場は賑やかだが、シアンは遠くに見えたジェナに手を振り、いつの間に知り合ったのか村の女性に親しげに声をかけ笑顔で何かを話すと、『その辺に置いといていいらしい』と広場の隅に置かれた台に使っていた皿やカップをのせる。

「先行くよ?」

「はい、少ししたら戻ります」

ティーナが賑やかな広場を抜けていくシアンを見送ると、入れ代わるようにシャールが姿を見せた。

「食べる?」

皿に乗った菓子を示すシャールに首を振り、カティーナはカップの残りを飲み干す。

「素敵なお祭りですね」

「そう言ってくれて嬉しいわ」

そのまま、特に会話をする訳でもなく、二人は並んだままそれぞれの皿に乗っている物を口へと運ぶ。

皿が空く頃になって、シャールは『私達のこと苦手?』と尋ね、カティーナは困ったようにシャールの顔を見たが、少し間を置くと、はっきりと『いいえ』と答えた。