ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

「もう日も暮れるとゆうのに、このような場所に何のご用でしょう?」

近付いて来た影は橋を渡り切る直前で止まるとそう言って意味ありげに笑い、左手をすっと前に伸ばした。

瞬間的に荷物と明かりを手放し、弓の弦を張り矢をつがえたシアン、隣のカティーナも剣の柄に手をかけ構えている。

「あら…ふふっ…」

影が伸ばした手の先を軽く振るとシアン達の周囲が途端に暗くなり、肌に纏わり付くような魔力が押し寄せる。

北でリファルナが使っていた感覚を鈍らせる闇の魔力と同質のそれに、シアンとカティーナは跳び退いたが、シャトだけはその場に留まり、目には見えないが周囲を照らしているのだろう明かりを手に取ると、少しだけ怒ったように、

「冗談が過ぎます」

と影に向かって声を上げた。

「ほら、シャト怒った」

闇が薄くなるとまだあかね色が微かに残る空から声が降り、橋の袂に二つ目の影が降り立つ。

元々そこにあった影も段々と姿がはっきりとし、シアンとカティーナはシャトを窺い警戒を解いた。

シャトの向こうに立つ二人、体つきは人間の女性の様に見えるが、ちらと見えた足元には鋭い鈎爪、背後に見える鳥の様な大きな翼は亜人としても珍しい部類かもしれない。

一方は背中にはえた濃い紫色の翼と同色の短めの髪、明るいオレンジ色の瞳に黒いワンピース。

もう一方は腰からはえた金色の翼と同色の長い髪、濃いめのグリーンの瞳に白いワンピース。

二人とも体つきの割に背が高く、どことなく顔立ちが似ている。

「シャールさんも止めてくれればいいのに」

「ごめんなさい。私もシャトが人を連れて来るなんて、ってちょっと興味があったの」

「紹介してくれる?」

 二人はシャト越しにシアン達を覗き込むように身体を傾け、じっと見つめたかと思うと悪戯っぽく笑ってひらひらと手を振った。

「驚かせてごめんなさいね」

シアンはあからさまに嫌な顔をし、カティーナは軽く眉をしかめながらも、その場でお辞儀すると投げ出した荷物を拾いシャトの方へと向かっていく。

しぶしぶといった風にシアンはその後に続き、シャトから一歩分離れたところで立ち止まった。

ナガコの所へと行った時にも同じようなことはあったはずだが、シアンにとっては何かが違うらしく、シャトが申し訳なさそうに二人に向かって頭を下げると、『いや、いいけどさ』と口にはするものの、その目はあさっての方向へと向いている。

ティーナの方には怒っている感じはないが、翼の二人を直視することはせず、どちらかと言えば曇った表情を見せていた。

その二人の様子に翼の二人は改めて頭を下げてから口を開く。

「ごめんなさい、ほんの冗談のつもりだったの」

「せっかく訪ねて下さったのにほんとにごめんなさい」

「私からも謝ります」

二人に続いて改めて頭を下げたシャトは、二組の間でそれぞれを紹介した。

紫の翼がジェナ、金の翼がシャール、祭のある村の娘だとゆう二人は姉妹で、シャトとは幼なじみのようなものらしい。

『先に行くわ』とシャールが翼を広げて飛び立つと、ジェナはシャトを見る。

「折角ですから、お祭り、見て行きましょう?」

シャトに言われて、とゆう訳ではないが、いつまでもつんけんしていても仕方がないと思ったらしいシアンは『よろしく』とジェナを見上げた。

「ようこそ。歓迎します」

そう言ったジェナの後について橋に足を踏み入れる直前、カティーナは辺りを見回し足を止めた。

「どうしました?」

「ここ…何があるんですか?」

「…? 結界が気になるの?」

ジェナが不思議そうにカティーナを見つめると、カティーナは眉を曇らせ顔をシャトの方へと向ける。

シャトは困ったように首を横に倒し、そんなカティーナを見上げていた。