ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

案内

長い髪を耳にかけるようにして三人の前にやってきた女は、背筋の伸びた綺麗なお辞儀をして口を開いた。

「お聞きしたいんですが、この道は北に通じていますか?」

"北"と言われてシアンは"あぁ"と言いかけたが、その隣でシャトははっきりと首を横に振る。

「東に抜けたいのなら、道沿いの一つ前の村を抜けた先に分かれ道があります」

「そうですか…ありがとうございます」

女がそう言って頭を下げると、手を引かれていた連れもそれに合わせて小さく頭を下げた。

顔を見合わせた二人を見て、シャトは、

「この少し先にも別の村があります、宿はありませんが、頼めば井戸も借りられるはずです。私達も同じ道を通りますからよければ村まで一緒に…」

と遠慮がちに言う。

「助かります」

二人は改めて頭を下げた。

一人は背中に流れる銀髪に明るい青色の目、襟ぐりの大きく開いたゆったりとした半袖のシャツの上から胸を支える形の黒革のコルセットを身につけ、生地のしっかりとしたショートパンツから伸びる脚の先は柔らかそうなショートブーツに包まれている。

腰に下がったレイピアには若干違和感を覚えるが、手足は日常的に剣を振るっている者のそれらしく引き締まっている。

もう一人は完全に目が隠れる程の前髪から、顎のラインにそってすとんとおちた黒髪、ゆったりとしたシャツに柔らかそうなキュロット、そして足首に紐の付いた布の靴。

シャトと同じく、二人ともあまり旅人とゆう感じには見えないが、それぞれの荷物と足元の汚れは一日二日の外出という感じではなさそうだった。

銀髪の方がマチルダ、黒髪の方がアーキヴァン、名乗った二人は、途中の分かれ道で右へ、と聞いてその通りに歩いてきたつもりだと話し、

「昨日泊まった村で尋ねた時には北へ抜ける道で間違いないと教えられたのですが」

とシャトに振る。

「北に抜けることは間違いないのですが、この先には小さな村が一つあるだけですから」

シャトはイマクーティの街の事には触れず、時々間違ってこちらへと来る者がいると言いながら、川に向かってなだらかに下る脇道を進んでいく。

橋を渡り少し行くと、道を挟む様にいくつかの建物が見え、シャトはその内の一軒の扉を叩いた。

「こんばんは」

すでに戸締まりをしたあとらしかったが、その声に小窓が開き、シャトの顔を見た家人は扉を開く。

「シャトちゃん、どうしたの?」

シャトが事情を説明すると家人は二人の姿を見て頷き、井戸だけでなく必要なら休むのに納屋を使っていいと、案内の為に外へと出てきてくれた。

二人はシャトに礼を言い、シャトも小さく頭を下げるとシアンとカティーナを促して再び道に戻り、村を抜けて先へと向かって行く。

「祭のある村ってここじゃないの?」

「はい、もう少し先です」

空はあかね色に染まり、森の中はすでに薄暗い。

シアンは手にしていた明かりを強め、村までは一本道だと聞いて先に立って歩いていく。

すこし先に大きな橋が見える、と明かりを掲げたところで辺りから沢山の鳥が飛び立ち、橋の向こうから闇に溶けるようにゆったりとこちらへ向かってくる大きな影にシアンは足を止めた。