ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

シャトに抱きかかえられるようにして身体を起こしたシアンは全身に感じる痺れに顔をしかめている。

「お二人とも大丈夫ですか?」

「へいひ」

ティーナの差し出した手に微かに首を振り、答えたシアンはもごもごと口を動かし舌を出したり引っ込めたりと鈍くなった感覚を確かめながらシャトの方を向き力無く笑う。

「すみません、大丈夫ですか? それほど強いものではないので直ぐに抜けると思いますが、気になるようなら、麻痺消しもありますから…」

シャトはシアンの心配をしているが、倒れ込んだ時に擦りむいたのか肘からは血がにじみ、首には鞘とあたったらしい擦過傷が出来ている。

シアンは大きく顔を動かし、大きく息を吸い込み、肺が空っぽになるまで吐ききるともう一度大きく息を吸い込んだ。

「いや、こっひこそごめん。首痛くない?」

「これくらいなんともありません」

「シャト、投げたあれ、わざと当たらないようにしてたでしょ、なんで?」

「…すこしでも刺さればその場で倒れますから…」

恥ずかしげ、とゆうのとはすこし違うけれど、言いにくいことを口にしているとゆう事なのかシャトは俯き加減にそう言って、シアンを窺っている。

「獣遣いってパートナーだよりって訳じゃ無いんだな、正直思ったより動き慣れてて驚いた。最初会った時、あの二人に何があったのかと思ったけど…」

シアンはため息をつき、地面の薬包紙を拾うとしげしげと眺め、

「なんか、納得した」

と手足を曲げたり伸ばしたりしている。

「シャトは最初から麻痺消し飲んでたの? 刃物に毒を塗るのはまぁあるけど、そのまま撒くとは思わなかったわ」

シャトは問い掛けには答えずに空いた間を誤魔化すかのように微かに口角を上げ、荷物を置いた木陰に戻ると手甲を外し傷を水で流す。

ティーナが辺りに落ちているシャトの針を拾い、『大丈夫ですか?』とシャトのそばに歩み寄ると、シャトはぺこりと頭を下げてそれを受けとった。

「平気です。昔からよく言われるんです、周りをよく見るようにって。こうゆうこと多くて」

「薬について詳しいのはそのせいですか?」

その質問にきょとんとするシャトを見て、カティーナは変なことを聞いただろうか、と思ったがすこし間を置いてシャトは『そんなこと初めて言われました』といつものように困ったような笑顔を見せる。

「薬の知識は獣遣いなら誰でも学ぶんです。魔術で回復することは出来ませんし、それに…」

と続けて何かを言いかけたところで近くの木からばさばさばさっ! と大きな音を立てて鳥が飛び立ち、その音に首を竦めたシャトはそのまま改めて話し出す事無く飛び立った鳥を見送っている。

「シャトー、水とってもらっていい?」

まだ地面に座ったままのシアンに言われ、シャトは水と一緒に麻痺消しを渡すためにその場を離れ、カティーナは自分の肩の辺りをさすりながら"やはり変なことを聞いたのだろうか"と考えているようだった。

 

麻痺消しを飲んだシアンは直ぐに動けるようになり、三人はまた街道に出て歩き出す。

シアンはシャトに獣遣いやオーリスの事などあれこれと尋ねているが、シャトの答えはシャト自身も首を傾げるような曖昧なものが多く、シアンは途中で笑い出し、シャトも『すみません』と言いながらつられたように笑顔を見せた。

他愛のないことを話しながら歩き続けるうちに、段々と日が傾きはじめ、林の中を抜ける三人は明かりを用意する。

それからそう経たないうちに道の向こうに見えた女の二人連れらしい影。

その片方は、三人に気付くと『すみませーん』と大きく手を振り、連れの手を引くようにして白く浮かぶ髪をなびかせながらこちらへと駆け寄ってきた。