ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

北の街へ 5

それからしばらく歩き、さすがに疲れてきたらしいシアンを心配してシャトがオーリスに乗るように促したが、自分だけそうゆう訳にも行かないだろうと、シアンは断り結局全員が歩いている。

「シャトも普段からいつもオーリスに乗ってるって訳じゃないんだな」

不思議そうな顔をするシャトにシアンは少し笑って話を続ける。

「いや、最初会った時もよく考えると歩いてたし、今日だって殆どそうなんだけどさ、見た目以上に体力あるんだなぁと思って」

「…そうですか? …急ぐ時とか、長い距離を移動しなければならない時なんかはオーリスにお願いしてしまいますし、今日だって崖登りは…」

そこまで言ってシャトがオーリスに向かって『ね?』と笑いかけると、オーリスは鼻を鳴らし応える。

シアンはその様子を眺めていたが、急ぐ時、と聞いたからか少しして遠慮がちにシャトに尋ねた。

「あのさ、今さらかなとも思うんだけど、こんなのんびり歩いてて平気? 入口までは急いでたし、私等がついてきたの邪魔になってる?」

シャトははっきりと首を横に振る。

「心配しなくて大丈夫です。どちらにしても今日は洞窟の中で休んで、明日の朝になってから北に抜けるつもりでしたから。ここの中で休めるのは一カ所だけなので、そこに着く時間を考えて、洞窟の中を走るよりはと思って少し急いでいましたが、もうすぐ着きますから」

途中途中で少しずつ休憩はとっているが、洞窟に入ってからまもなく四時間とゆうところだろうか。

シャトの案内でそれまで歩いていた道から横道にそれる。

風の通り道から外れた分、寒さを感じにくくなった。

その横道からさらに分かれた道の一角に、明らかに人の手で整えられた小さな空間があり、シャトはその中に入っていく。

「ここだけは、岩に幕を吊せるようになっているんです。オーリスが居ても三人で十分に休めるだけの広さがありますから…」

シャトはローブの腕だけを脱いで、リュックをおろした。

そして、それだけのものがどこに入っていたのか、入り口を塞ぐための幕と、余分に持ち歩いていたらしい三枚のローブを引っ張り出す。

「暖を取る為の魔石は用意してきましたが、オーリスのそばで眠るのが一番暖かいと思います。嫌じゃなければ、ですけれど…」

シャトはそう言いながら慣れた手つきで幕を入り口に吊し、休む準備を整えていく。

シャトにならってシアンとカティーナも荷物を下ろし、自分達の幕を取り出すと、少し悩んでから二枚を繋いで広げオーリスをその上に呼ぶ。

オーリスはどうすればいいのか解っているらしく、真ん中に陣取ると体を丸め、一度シャトを見つめると目を閉じた。

シャトは二人にローブを渡すと、暖を取るための魔石を数箇所に置き、周辺の水場の場所などの説明をしてオーリスの顔の近くに腰を下ろす。

シアンはその横に座るとオーリスに声をかけ、ゆっくりと身体を預けていく。

毛はふわふわしているが、人が寄りかかるくらいではオーリスの身体はびくともしない。

シアンはそれを確認すると改めてローブにくるまった。

「シャト、空いてる炎系の魔石あるなら貸して。明かりもずっとシャトがつけてくれてるし、代わりに魔力入れるから」

「もう大丈夫なんですか?」

「朝まで休めるなら平気だよ。ほら」

シャトから魔石を受けとると、シアンはそこに魔力を集中させる。

中心に小さな明かりがともったように、微かだが魔石全体が光を帯びていく。

「こんなもんかな…」

シアンは三つの魔石に魔力を入れ、あくびをしながらシャトに返す。

「ありがとうございます」

「んー、いいよ。おやすみ」

シアンは目を閉じるとすぐに寝息を立てはじめた。

「もう眠ったのですか?」

水を汲みに行っていたカティーナが戻り、シアンの姿に声をひそめると、シャトはシアンのローブの首もとを直しながら答える。

「えぇ、今」

「やはり疲れていたのですね。普段なら遅くまで起きているとゆうのに…」

「シアンさんと旅をされて長いのですか?」

シャトの質問にカティーナは首をひねっている。

「…初めて会ったのが半年程前でしょうか? それから何度か仕事を受けた先で顔を合わせていて、お互いにひとりでふらふらしているよりは野宿でも何でもしやすいだろうとシアンさんが…同行するようになったのはそんなに前ではないと思いますよ?」

ティーナははっきりとは思い出せないのか、そこまで答えてもなお首をひねったままでいる。

 

魔石の明かりを絞り、オーリスを挟んでシャトとカティーナはとぎれとぎれに言葉を交わしていたが、その内にシャトが寝息を立てはじめた。

ティーナは二人の寝息を聞きながら、オーリスの毛を手で梳いている。

時々強い風が吹くのかわずかに入り口の幕が揺れるが、その揺れに合わせるように静かな洞窟に低い音が響いていた。