北の街へ 6
洞窟の中で夜明けを知ることは出来ないが、ちょうど空が明るんできた頃、シャトが目を覚ました。
オーリスは鼻を鳴らしシャトに頭を擦り付け、シャトもそれに応えて頭を撫でる。
隣に座っていたシアンはいつのまにか横たわり、オーリスの脇腹に半分埋もれるようにして眠っている。
「おはようございます」
すでに起きていたのか、シャトが起きたことに気付くとオーリスの陰からカティーナが顔を覗かせた。
「おはようございます、カティーナさん早いですね」
「外の様子が分かりませんが、もう朝でしょうか?」
「そろそろ夜明けです。お湯を沸かせるように、水、汲んできますね」
シャトは悩むことなく夜明けだと言い、リュックから小さなやかんを取り出すと幕の外に出て行く。
幕の隙間から入った冷気に反応したのか、シアンがもぞもぞと動き、オーリスから離れると顔までローブをかぶりなおすが、目を覚ました訳ではないようだった。
オーリスは一晩中殆ど動かないでいたのか、シアンが離れると大きく伸びをし、その場で軽く跳ねると幕の隙間に鼻を突っ込み外に出る。
シャトの時よりも大きく冷気がはいったからか、今度はシアンも目を覚ました。
「…んー…ん? …あー、そうか。シャト達は?」
辺りを見回したシアン、まだ頭ははっきりしていない様子だけれど状況は解っているらしい。
「シャトさんはお湯を沸かせるようにと水を汲みに。オーリスさんは身体を動かしに行ったんじゃないでしょうか?」
「んー、そっか。ありがと」
シアンは大きなあくびをすると、カティーナに『おはよう』と改めて声をかける。
「おはようございます。身体は大丈夫ですか?」
「ん? 別に平気だけど、なんで?」
「昨日は一番に寝付いたようでしたから…」
そこへシャトが戻り、シアンと挨拶を交わすとリュックの中から魔石にカップに薬草にと、昨日に引き続いてリュックの何処に納まっていたのか分からない量の物を取り出していく。
「お湯を沸かしますけど、お白湯と薬草茶とどっちがいいですか?」
二人とも薬草茶を頼んだが、シアンはそれよりもシャトのリュックの中が気になっているようだった。
「シャト、そのリュックちょっと見ても構わない?」
「えぇ、構わないですけれど、ただ…」
と、シャトが続けようとした時には、もうシアンはシャトのリュックを覗き込もうと身を乗り出したところだった。
ひゅっ、と風を切る音が聞こえ、シアンの頬に一筋線が入ったと思うとたらりと血が伝い、後ろの壁にはびーんとその身を震わせたナイフが刺さっている。
「へ…?」
シアンは頬を手の甲でこすりあげると、壁のナイフを確認して一歩後ろに下がり、シャトを見つめた。
「…! ごめんなさい!」
シャトがすぐに傷の周りを拭いて止血し、服に血がついていない事を確認する。
「血の匂いはあまり良くないんですが…えっと、とりあえず手を洗って来て下さい。傷はあとでもう一度見ますから…」
「あ、うん。わかった」
シアンは何が起きたのか分からないままだったが、だからこそだろうか、素直に手を洗いに行く。
「今、の…は?」
カティーナも何が起きたのか分からず、リュックとシャトを交互に見ている。
リュックから更に何かが出るということはなさそうだったが、何かが入っているのは間違いないだろうと、カティーナも少し身を引いていた。