北の街へ 4
「えっと…北にはイマクーティの街があります。人は殆ど住んではいません」
「イマクーティって、何だっけ? 聞いたことある気はするんだけど…」
シアンは腕を組み天井を見上げるようにしながら歩いているが、足元はその程度の事で転ぶほど荒れていない。
「イマクーティは狼の特徴を受け継いでいる種族です。時々、頼まれて荷を運んだりしているのですが、街で何かあったらしくて、訪ねて欲しいと…」
「それがあの遠吠えか…。でも、シャトひとりで行くつもりだったろ、クラーナさんとか、他の人は?」
その質問にシャトは何と答えるべきか悩んだようだったが、それ程間を開けずに口を開く。
「…何かがあればお互いの為にならないでしょう? 今、大型の魔獣をパートナーにしているのは私と父だけなんです。…父は出かけていますし、戻るまで待っても良かったんですが、話だけでも先に聞いておこうとゆう事になって、それで」
シアンは『ふーん』と相槌をうち黙り込む。
腑に落ちないところがあるのか、シアンの考え込んだ様子にシャトもカティーナも遠慮しているらしく何も言わずにいる。
「こんな言い方、失礼だな、とは思うんだけどさ、用があるから来いって言われて、時間かけて行って、話聞いて、そんで必要なこと"してあげる"わけ? お人よし?」
シアンの言葉にシャトが気を悪くした様子はない。
「確かに、今の話、そう聞こえますね…でも、そうじゃないんですよ? 普段なら用がある時にはあちらからいらっしゃいます。私達が困った時には力を貸してくださいますし、遠吠えが届く距離まででそれ以上近付かないのは、家の周りに嫌がる子達が多いのを知っていて遠慮してくださっているからで…」
そこまで言って、シャトは心配からか眉をひそめ、一呼吸おいて続ける。
「ただ、今回は呼び出しだけで戻ってしまっています。いつもと様子が違うので、何があったのか気になってはいますし、出来ることがあるなら、とは思っているのは事実ですが…」
「あー、えと、ごめん。なんか私ずいぶん勘違いしてるみたいだな」
「いいえ、はっきり言っていただいて良かったです。…私、人の気持ちをくむのが苦手なので、シアンさんみたいに話してくださるほうが好きですよ」
シャトの笑顔とその言葉にシアンは居心地が悪そうで、癖なのかこめかみの辺りをかりかりと掻いている。
二人の話を静かに聞いていたカティーナだったが、シャトの言葉に続き、悪気は無いのだろうがシアンを困らせる様なことを言う。
「私にとっても、シアンさんのものをはっきり仰るところは好ましいです。シアンさんのなりの"良い"と"悪い"は解りやすいですし、行動もそれに沿っていますから」
二人がからかうつもりで言っている訳ではないと判るからこそ、シアンはいたたまれないのだろう。
「二人が揃うと…なんてゆうか、調子狂うわ…」
ため息をつくシアンに、シャトは『ごめんなさい』とくすくすと笑い、カティーナは首を傾げている。
「褒めているんですよ?」
「だぁーッ!! カティーナが冗談でそうゆうこと言わないのは分かってるよ! でも、んぁ…もう、何で通じないかなぁ…!?」
シアンとはまた違うが、カティーナはカティーナで極々素直に思ったことを口にする。
そんな二人のそばにいるとゆうのは、シャトにとっても、オーリスにとってもなかなか新鮮な事のようだった。