ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 3

「何があった?」

川にかかる丸木の橋を越え、始めに口を利いたのはガーダだった。

「海です。溢れている…」

「…? 海は凪いでいる。どうゆうことだ」

「その海ではなくて、壁の向こう側の海です。壁が傷ついているのでしょう、こちら側に溢れてきているのだと思います」

「魔力の嵐…?」

ティーナの言いたいのだろう事をシアンが代わりに口に出し、カティーナが頷くとイマクーティ達がざわめく。

「あのまま進めば飲み込まれたとゆう事か?」

「恐らく」

「でもカティーナ、魔力の嵐が起きれば見て分かるような、なんてゆうんだ…歪んで見えるような、そうゆうふうになる。この先にはそれが無いし、もし本当に起きていたとしても嵐は長くて一日だ。ほっとけば勝手に塞がるし、広がることなんて滅多にない。あの辺りまでは異変が起きた後でも行ったんだろ?」

シアンの問い掛けにイマクーティ達は頷いたが、カティーナは首を横に振る。

「歪みについては私には分かりませんが、私は嵐とは関係なくここに来ました。自分で道を"創る"事が出来る者が他にも居る可能性はゼロではないでしょう」

「北の魔術師がわざと壁に亀裂を創って辺りを飲み込ませているってゆうのか? そんなのありえない…魔術師だろうと魔力の嵐に飲まれたらまず間違いなく普通じゃ居られない、わざわざ何のためにそんなこと」

「嵐に飲まれても無事でいる…もっと言うならば、海を越える方法を知っている者が現にここに居ます。道を創り世界の外に出た…それなら姿が見えない理由にもなるのではありませんか? 他にも考えられる状況はあるのでしょうけれど、シアンさんの話を聞く限り、自然に出来た傷ではないと考えるべきかと…」

「カティーナ殿、嵐はまだ広がるのですか?」

マルートは真剣な顔でカティーナに尋ね、周りのイマクーティ達もカティーナの顔をじっと見つめる。

「分かりません。壁が傷ついている事は間違いないのですが、それ以上のことは…」

ティーナは一度言葉を切ったが、周囲の表情を見て、

「まずは様子を見てきます」

と、自ら口にする。

「…それは、危なくないんですか?」

シャトの問い掛けに頷き、

「嵐自体は問題ではありません。ただ、罠があるとゆう事ですから、それをどうしたらいいか…具体的にどのような物なのでしょうか?」

知っている者が居るだろうかとカティーナがイマクーティ達の顔を見上げると、長老の供をしていた一人が前に出た。

「突然炎が吹き上がったり、風の刃が飛んで来たり、雷に撃たれたような者もいた。後は…闇に包まれ感覚が狂う」

「見て判断できるものではないのですか?」

「辺り一帯が掘り返された様になってはいたが、それだけだ。どこから何が来るか判断のついた者は居なかった」

シアンはカティーナの視線を受けて、口を開く。

「あー…えっと、罠になるとすれば、地面の下に魔石を仕込むか、何処かと魔術式で繋いでるか、の、二通り…かな?」

悩みながら答えたシアンは、『例えば…』と地面を掘り、荷物から取り出した魔石置くと薄く土をかける。

「これは声に反応して炎が上がる様な式が書いてあるんだけど…アイヒッキ アイヒッキ アナン アクネッ」

シアンが言うと、かけた土の間から焚火程の炎が上がり揺らめくが、問題はそこじゃないらしくシアンはもう一度声を上げて炎を消した。

「アイヒッキ アイヒッキ アナン アクオース。で、土の下から何かが出ればこんなふうに魔石が見えると思うんだけど?」

イマクーティ達は魔石をそんな形で使った事がなかったらしく、土の下から覗く魔石を見て眉を寄せていたが、実際に罠の発動を見た者は首を横に振る。

「そんな様子はなかった。炎があがった地面を見たが、土が焼けていただけだ」

「なら、魔術式で家の中とかと繋げてるんだろうな。そっちは私じゃ出来ないんだけど…」

とシアンはどう説明したらいいものかと首をひねっていた。