魔術師達の家へ 11
「何してたんだ…? あ、いやそれより、森の中を来たのか?」
シアンが尋ねると、カティーナは頷き、森を振り返りながら答える。
「嵐に飲まれた時に罠は全て暴発したようです。辺り一面に新しい傷や焦げ跡が残っていました。通っても問題ありません」
「少し、臭うな…向こうで何があった?」
ガーダが顔をしかめそう言うと、カティーナは自分が汚れているのだろうかとローブの裾や靴周りを確かめるが、臭いはカティーナの全身に染み付いているようで動く度に周囲に臭いが広がる。
ガーダ達イマクーティはもちろん、シアンとシャトもその臭いを感じているらしい事に気付き、カティーナは少し距離を取り風下側に場所を移した。
「自分では判らないのですがそんなに臭いますか…。崖の上まで行って見て来ましたが、大きな亀裂がありました。異変は間違いなくそのせいです」
「この臭いもか?」
「あ、いえ…原因は亀裂にありますが臭い自体は別です。外から流れ着いたと思われる大きな生き物が亀裂に引っかかる様にして死んでいました。元々死んでいたのか、こちらに来て死んでしまったのかは判りませんが、身体は腐り落ちていて、流れ出した物が崖を伝って海まで…辺りに臭いが広がっているのはそのせいだと思います」
皆が困惑と憂いの混ざったような複雑な表情を見せる中、シアンはヒニャの言葉を思い出し表情を強張らせていたが、話を先に進める。
「魔術師達は居なかったのか?」
「全員亡くなったようです。家の中に溜まった液体の中にそれらしい影が三つ。家は閉め切られていました。入り口からいろいろと漏れ出していて、開ければより広がるだろうと窓を破って中を覗いただけなので、詳しいことは判りません。ただ、亀裂の下から何か力がかかっているような感じがしました。もしかしたら亀裂が閉じないのはそのせいかも知れません」
「さっき、スティオンのとこに行って来たんだけど、魔術師達が壁を壊そうとしていたのは間違いないらしい。そこに何かしら魔術式が書いてあるんだろうな…他に気になったこととかあるか?」
カティーナは首を横に振ったあとで、
「スティオンさんのところで何か分かったのですか? 漏れ出しているものを全て凍らせれば中に入れるかも知れません、私でも出来ることがあるならもう一度行って来ます」
と言って、少なからず周りを驚かせた。
「分かったことなんてほとんど無い、けど、それより…カティーナ、お前、一人で平気なの?」
「嵐なら問題ないと、何度も言っているでしょう?」
シアンが言わんとするのは魔術師の家にある生き物や魔術師の遺骸、そしてその処理に関することだったが、カティーナにはそれが通じていないらしく、首を傾げている。
「気にならないなら構わないんだけど…」
シアンがまだ続けて何かを話すだろうとカティーナが待ったことで会話がとぎれ、風に揺れ、擦れる枝葉と波の音が際立った。
一度とぎれた会話に何故かそれぞれが口を開くのを躊躇っていたが、その沈黙の中シャトは何を思ったか、
「シアンさんもカティーナさんも何故街のために動いてくださるんですか?」
と唐突に尋ね、二人の顔を見る。
カティーナが表情を変えることは無かったが、シアンは首をひねり眉をよせると、『何故…?』と呟き、考え込んだようだった。