ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 15

「カティーナ殿が見たとゆう腐り落ちた生き物をできる限り世界の外に出したい。液状になっていると言ったが、干し草か海藻か…何かに吸わせることは出来るだろうか」

話を聞いて、タドリ達の淡く光る身体を気にするシアンを余所に、カティーナは部屋一面に溜まった液体を吸わせるのには何を使うにしても量が必要だろうと首を横に振る。

「中の様子を見るのに辺りを一度凍らせてみようと思っていたのですが、凍った物を切り出すか、掘り返すか…そうゆうことは出来ないでしょうか」

ティーナの言葉にイマクーティ達は顔を見合わせ頷くと、シャトと共にこの場に留まっていた二人が街に向かって走り出した。

シアン達に精霊のことを話したイマクーティは未だ座り込んだままのマルートの元へと行き、躊躇ってはいるのだろうがそのような様子を見せることなく口を開く。

「魔術師達の骸、どういたしましょう」

頭を抱え続けていたマルートだったが、ゆっくりと顔をあげると、落ち着いた威厳ある声で答えた。

「本来ならば竜の元へと送ってやりたいが、嵐の中にあってはそうは出来ないだろう…どこか、森の中に埋葬を。どのような者達であろうと、死者はいずれ世界に還り、我等の暮らしを支えるのだ、丁重に扱われなくてはならぬ。他の長老達が何かを言ったとしても、責めは私が受ける。どうか、聞き入れてくれ」

尋ねたイマクーティは胸に手を当て恭しく頭を下げる。

タドリ達はその後ろで憂いを帯びた瞳をマルート向け、片膝を地面に付き頭を下げることで服する意思を示した。

「シャト、竜の元に送るって何?」

シアンが声をひそめて尋ねると、シャトは視線を伏せ、静かに答える。

「山の南側も含めてこの辺りでは埋葬する習慣がありません。…山に住む竜の多くは屍肉を口にします。死者は竜の元へと送られ、糧となることで竜の力の一部に、そしてやがて世界を巡る魔力へと還る。竜の糧となった身体はいずれ土地を肥やします、その土地の恵を受けて私達は生きているのです」

「どこでも同じようなことするんだな」

その言葉でシャトが顔をあげるとシアンは続けて話す。

「イムオースでは死者は海に流されるんだ。石の飾りをつけた服を着せられて、わざと沈みやすいように作った舟で沖に出される。身体も魔力も海に還って、世界の一部になるって。…にしても、魔術師達のこと良くは思ってないだろうに、ああ言えるのは流石長老…、いや、ああ言えるからこそ周りがついて来てくれるのか…」 

シアンの言葉にカティーナはガーダから聞いたマルートの息子の話を思い返し『辛いですね』と呟いた。

日差しは遮られているが、雲の薄くなってきた空は白く光っている。

改めて魔術師達の家の周辺や、流れ着いた生き物について話をし、カティーナとタドリ達は舟ではなく森を抜けていく事になった。

街へと走って行った二人が鍬やツルハシ、シャベル等古いが良く手入れされた農具を背負い戻って来ると、タドリ達はそれを受け取る。

「精霊が亀裂を閉じられるなら必要無いかも知れないけど、本や何か書き留めたノートなんかがあるようなら持って帰ってきて。あとはとにかく魔術式には触らない。カティーナは何となく式がある場所分かるみたいだから、後ろからついてけば問題ないと思うけど、気をつけて」

シアンが言うとタドリ達は頷き、横からシャトが口を開いた。

「私に出来ることは無いでしょうか、自分で付いていくと言い出したのに、シアンさんやカティーナさんに頼ってばかりで…何かあれば遠慮なくおっしゃってください」

「シャト、この臭い、風でとばせるか? 全てでなくともいい、少しでも軽くなれば嬉しいのだが」

そう言われて、シャトは何故か唇を噛んだが、小さく頷くとオーリスを呼び、『皆さんお気をつけて』と微笑んで見せた。

ティーナ達は顔を布で覆い、農具を背負うと川の向こうへと向かっていく。

「言っておかなければならないことがあります」

シャト達と離れるとカティーナは胸元から飾りの付いた紐を取り出しそう切り出した。

「私はこれをくわえる事で嵐の影響を受けなくなるのです。これをくわえている間は自由に話すことが出来ません。確かめた限り家の中以外は安全です。家の中に入った後、確認が済むまでは私より前に出ないで下さい」

「分かった。カティーナ殿の動きに気をつけるようにする、何かあれば身振りで知らせてくれ」

「よろしくお願いします。向こうに付いたらまず辺りを凍らせます。量もありますから時間がかかると思いますが、その間に埋葬の準備を」

ティーナはそこまで言って飾りをくわえると、魔力を集中させていく。

しばらくしてカティーナがタドリ達を見つめ頷くと、四人は改めて森へと向かって歩き出した。