ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 14

森を進むと段々と生き物の気配が増えていく。

さえずる鳥は驚いたように飛び立ち、獣は走る私達を恐れるように息を潜める。

この先は辺りで一番精霊の力の強い場所、森の中に湧く泉。

長老が脚を緩めると、全員がそれに合わせ息を整える。

泉はまだ先の筈だが、集まった精霊の視線が自分達に向いているのをはっきりと感じるようになると、仲間達の緊張が高まっていく。

辺りにいる実体を持たない力の弱い精霊の声も、タドリ達には聞こえている。

どうやら私達のことについて何か言っているらしい。

異変起きてすぐに森に入った時には、怒りの感情をあらわにするだけで話すら聞かない者も多かったとゆうが、今周囲にいる精霊達は自分達を泉に案内するように辺りを飛び回っていた。

 

森が開け泉が視界に入ると長老はすぐに地に伏し、あとに続く私達もそれに倣う。

泉の淵には背に草を繁らせ枝のような角に花を咲かせた鹿、その透き通った身体に小さな魚を泳がせた人魚、草木の葉や実や花びらを風で集めて翅とした大きな蝶の姿があった。

それぞれが大地の、水の、風の精霊。

身体から淡い光を放つその姿はその場にいる全員の目に映っているが、魔力を介した精霊達の言葉はタドリ達三人にしか聞こえていない。

『あなた方が訪ねて来るのを待っていました』

三人の中で一番年嵩の者がそれを改めて言葉にすることで私達は精霊の言葉を理解する。

『一度目は魔力の影響を受けた者達が追い返してしまったようですね。謝ります』

話をしているのは人魚で、透き通った顔から表情を見てとることは出来なかったが、私達に向かって頭を下げていた。

精霊達が口を開くとその場に、悲しげだが優しく包み込むような音が何重にも響き、私達は精霊の感情を知る。

『あなた方が動き出した事は知っています。南のお嬢さんは不思議なお友達を連れているのね…』

「はい、異変の原因は壁が傷つき魔力が流れ込んでいる事にあるとその者から教えられました」

『えぇ、解っています。強すぎる魔力は辺りを荒らします、私達としても傷を塞ぎたいと思っているのですが、嵐が広がっているのとは別にあの場を乱し、穢す者が流れ着いている…。傷を作り壁を開いた人の力よりも、その存在が障ります。外に在るべき者は外へ。あなた方が受け入れると言ってくださるなら、あの場に近付く事が出来ない代わり、私達の力であなた方を守りましょう』

精霊はタドリ達三人に、自分達の力を纏えば嵐の中へ入ることも出来ると言い、答えを待っている。

不安を持っていることは傍目にも明らかだったが、三人は誰に強いられることなく自らの意思で前へと進み出ると、精霊達の申し出を受け入れると告げた。

周囲にいた精霊達が三人の辺りを取り巻き、まるで優しく口づけるかのようにその身体に触れていく。

三人は身を固くしていたが、体の中から日に照らされているような暖かさを感じているらしい。

三人が魔力を受け入れられる事を確かめたのか、泉の淵の三体は身体を解き、魔力そのものへと姿を戻すとそれぞれを包み込み、祈りを込めるように抱きしめ、その首筋にくちづけた。