ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

嵐の中で 3

人を丸のみに出来るほどに大きな頭骨。

それを動かそう…と、イマクーティ達は三人で囲むようにして力を込める。

ティーナは何かがあった時の為に亀裂のそばでその様子を見守っているが、未だ触れられることなくその場に留まっている眼球に睨まれているような、圧を受ける感覚を拭えずにいた。

「落ちるなよ、脚、気をつけろ」

声を掛け合いながらゆっくりと亀裂に近付き、魔石に刺激を与えないように足の位置を確認すると三人は呼吸を合わせて頭骨を亀裂の外へ投げ出そうとしたが、タドリの離すタイミングか少し遅れ声が上がった。

「危ない」

バランスを崩したタドリが亀裂の側へ倒れるのを防ごうと、カティーナは咄嗟に掴んだ服を力一杯引っ張る。

そのおかげでタドリが亀裂に落ちることはなかったが、不意に後ろに引かれたことで足を滑らせそのままカティーナに覆いかぶさるように床へと倒れ込んだ。

タドリはどうにか腕をついてカティーナの上へと落ちることを防いだが、床に倒れたカティーナは声にならない呻きをあげ、その身体を苦しげに丸めている。

「カティーナさん!?」

慌てて助け起こそうとしたタドリはカティーナに触れた手に焼けるような感覚を覚えて思わず手を引き、それと同時に、襲ってきた痛みに声をあげた。

手の表面がじゅわじゅわと音を立てながら爛れている。

痛みに呻きながらタドリは何が起きたのかと、自分が触れたカティーナの肩に視線を向け、潰れてどろりとした中身を晒す眼球を見た。

「タドリ!?」

「来ちゃだめです!」

駆け寄ろうとする二人を大声で制止したタドリはカティーナの肩に触れない様に抱え上げ、鋭い爪で眼球から漏れ出た液体に溶け落ちたカティーナの服を破くと、自分の上着で包み込む。

「触っちゃだめです…触れたところが溶けてしまう。カティーナさんの手当て…しなきゃ…」

二人は潰れた目を避けるようにタドリのそばへとやってくると自分の服を割きいてその手を覆い、カティーナを背負おうとする。

しかしタドリはそれを止め、爛れた手の痛みに耐えながらその背をカティーナに向けた。

ティーナは肩から腕にかけてじゅくじゅくと響く痛みに引っ張られるように揺らぐ意識を保とうと、その口にくわえた飾りにぎりと歯を立てている。

「僕が背負えば戻るのは僕だけで済みます。ここを放って行けないでしょう? 大丈夫、これぐらいなんでもありません」

「しかし…」

「大丈夫ですっ!! 乗せてください!」

「分かった。カティーナ殿、動かしますよ」

二人がカティーナを背負わせ壁にかかっていた紐で支えるように縛り付けると、タドリは強く息を吐き立ち上がった。

「カティーナさん、嵐を抜けるまで頑張って下さい。行きます」

降り続く雨の中に走り出たタドリは、森を抜ける時間が惜しい、と、街側の崖を飛び降りる。

その姿を見た二人は、この雨の中でも出来る限り遠くまで届くようにと祈りながら、何処に居るか分からないシャト達に向けて急を知らせる遠吠えをあげ、無事に砂浜に降りたタドリとカティーナへと視線を向けた。

そして、先ほど目にした、表面だけではなく肉をえぐるように溶け続けるカティーナの傷に、どうか無事で、間に合ってくれ、と、それが何かの役に立つのかも分からないまま、身に纏った精霊の力に強く、カティーナの為に強く願いを込める。

そしてそれと同時に、肉体的にも精神的にもかなり無理をしているだろうタドリから目を離す事が出来ず、自分達の身体を打つ雨のことなど忘れているかのように立ち尽くす。

そんな中で自分達の声に応えた遠吠えに顔をあげた二人は、表情を引き締め頷き合うと、作業を進めるために、再びタドリの背に視線を送って鼻先の布をまき直し、雨粒を飛ばすように身体を震わせると力強く家の中へと戻って行った。