ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

嵐の中で 2

波打際の砂ごと集めたどろどろの物体をどう崖の上に運ぼうか、と考えながらイマクーティが崖を見上げると、ちょうどカティーナが崖の上から顔を覗かせ、目が合うと"上がってくるように"とゆう仕種を見せた。

イマクーティが崖を上がると、カティーナはどうやって外したのか出入り口の扉を横に立てかけ、"覗くように"とゆうことなのか中を指差している。

みぞれ状に凍った赤黒い物体に足を入れるのを躊躇ったイマクーティは窓から中を覗き、部屋の中心できらきらと光る亀裂と、大きな生き物の骨、そしてその頭骨やこぼれ落ちた眼球と話に聞いていた物を確認していく。

腐り落ちた生き物の身体に沈むように横たわっているはずの魔術師達の姿は、液体が表面まで凍ったせいかはっきりとは判らなかったが、それらしい影がぼんやりと見えている。

イマクーティはカティーナに声をかける為に鼻を覆った上着を外し、臭いが薄れていることに気がついた。

「カティーナ殿臭いが…薄まりました、か?」

ティーナはずっとこの場にいたこともあり、その問い掛けには首を傾げていたが、改めて家の中を指差し、取り出した紙に何かを描いていく。

差し出された絵にイマクーティはしばし首をひねり、

「部屋の中心に何かがあるのですか?」

とどうにか読み取った事を声に出す。

ティーナはさらに絵を描き足し、それを渡す代わりに農具を受けとると家の中を少しずつ掘り進め、何者かの骨を避けながら亀裂の真下を指差した。

「その場に…丸?」

ティーナは足を踏み鳴らす真似をし、首を横に振った。

「あ、そこを踏むな、とゆう事ですか」

イマクーティには判らなかったが亀裂の真下には魔石の組み込まれた魔術式があり、カティーナはシアンの言葉通りそれに触れることなく作業を進めるように、とゆうことを伝えたいらしかった。

ローブの裾は上げられていたが、既に靴やズボンは汚れていて、もう気にしても仕方がないと思ったのか、カティーナはそのまま掬ったみぞれ状の物を亀裂の外へと出しながら動きやすい様に通路を拡げていく。

「カティーナ殿、代わります。魔力に余裕があるのなら砂浜に落ちた物も凍らせてはいただけませんか? その方が臭いが少ないようですから私達も楽に動けます。いつ雨が降り出すかも分かりません、道を拡げたら浜の物から先に片付けましょう」

ティーナ達は手分けをして片付けを進めていった。

 

しばらくするとタドリ達も姿を見せ、家のそばに落ちていた桶や皮の袋を利用して集められた物体を砂浜から亀裂へと次々に運んでいく。

砂浜を汚していた物体があらかた片付き、家の前の物に手を付け始めると、ぽつりぽつりと雨が降り出した。

慌ただしくその場を片付けた四人は臭いのこもる家の中へと場所を移し、農具を支えに休みながら、どこか気が抜けたように段々と強まっていく雨と波の音を聞いていた。

目の前の地面が洗われ、崖を伝って海へと流れていく。

「崖に残った物は海に流れてしまうでしょうか…」

タドリの声は雨に吸い込まれ、三人は空耳だったろうか、とそちらに顔を向けだが、タドリ自身も自分は声を出しただろうか、と喉に触れ、向けられた三人の顔を見つめ返している。

「…まだやらねばならないことは多い。まずはそのことを考えよう」

四人は魔術師達の遺体と何者かの骨を避けながら家の中に溜まった物をただ黙々と集め、掬い、捨てる事を繰り返す。

部屋の半分程が片付く頃には魔術師達の遺体は、既に片付けられた戸口の横へと移され、大きな何者かの骨も手近なものから順に亀裂の外へと出され始めていた。