ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 13

ティーナはずいぶん長い間考えていたが、自分で頷き、話し出す。

「私に出来るのは壁に出来た傷が治るのを助ける程度の事です。傷を広げようとする力が強ければ役には立たないかもしれません。道を創る事に関してはある程度自由に出来ますが、人が通り歩き出来る大きさ以上のものを創った経験は無いですし、これだけ魔力が溢れている状態で試したこともありません」

シアンは相槌なのか悩んで唸っているのか『んー』と言って考え込む。

「亀裂って通り歩きするだけじゃなくて、物を外に出すことも出来るんだよな? 魔術式を書いた物ごと世界の外に出せるか? 物を飲み込むような傷を作るとか…」

「物を飲み込む? 物を外に出すことは出来ますが…?」

シアンにはカティーナに何が出来て何が出来ないのかがいまいち解らず、カティーナにはシアンの想像するものがどんなものなのかがはっきりしない。

シャトやガーダ達は壁や亀裂について考えてはいるものの、魔力の概念のない想像はぼんやりとしていて、二人のやり取りを聞いているだけで口を挟む事も無い。

一人でぶつぶつと何か言いながら、シアンはまた落ちている枝を拾うと地面に何かを描きはじめた。

「ここに魔術式が書いてあるとして、下から力がかかってるって言ってたし、亀裂があるのがここだとすると、この亀裂拡げて、こう、魔術式を飲み込ませるとか?」

「それは出来ないと思います。道を創るのは空間を繋げる感覚です。何かに触れればそれ以上拡がらないと…」

「そうゆうものなの?」

ティーナとシアンはお互いの知識や感覚をできる限り相手に伝えようとやり取りを続けるうちに、森の奥から微かに集団の足音が聞こえてきた。

それから間もなく、精霊に会いに行っていた六人が息を切らせて森を抜け、シアン達が居る浜へと向かって来るが、シアンは何か違和感を感じたらしく、首をひねりその姿を見つめている。

「なんか、タドリ達雰囲気が…」

シアンが感じた通り、精霊と会話が出来るとゆう三人の様子が森へと向かった時と今とではずいぶん違う。

シアンやカティーナの目には身体の周囲が淡く光って見えているが、それはどうやら精霊の魔力を纏っているせいらしく、いつもとは違う感覚に馴染まないのか、足を止めると何処かそわそわしているように見える。

「カティーナ殿もご無事でしたか…」

マルートはまずそう言って一息付くと、自分達の話をする前にカティーナに魔術師達の家やその周囲の様子を尋ねた。

ティーナはできる限り詳しく見てきた物の事を話し、それに続いてシアンもスティオンから受けとった巻紙の事を伝える。

マルートは二人の話に耳を傾けていたが、悲しげな表情で目を閉じると、深いため息をついた。

「すまないが、私は少し休ませて貰おう」

精霊達の元へと走った疲れの上に押し寄せる、憤り、困惑、悲哀…感情の波に負けたようにマルートはその場に座り込み、あとを供の一人に託すと手で顔を覆うように頭を抱える。

その姿は痛ましく、イマクーティ達は沈痛な面持ちで顔を伏せたが、その中の一人だけはシアン達に精霊達の元へと向かってからの出来事を伝える為、タドリ達を促し、シアン達の側へと場所を移した。