ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 12

「何故って…何で?」

シアンは考えるのを放棄したのか、シャトに聞き返し、こめかみの辺りを掻いている。

「…聞いておいた方がいいのかと…」

少し間を置いてそう答えたシャトに、シアンは、

「なんか他人事みたいだな」

と言ったが、再び『何故ねぇ…』と首をひねり、腕を組んだ。

「理由なんて考えて無かったけど、そんなもんなんじゃない?」

しばらく考えたあとでシアンはそう言ったが、その答えに自身で納得している訳でも無く、カティーナはどうなんだ、とそちらに目を向ける。

時々吹く強い風に目を細め、なびく前髪をかきあげたカティーナはシアンに続きシャトやイマクーティ達の視線を受けて首を傾げた。

「良くしてくださった方達の為に何かしようとするのはおかしな事ではないでしょう? この世界の価値観はそうゆうものなのだと思っていましたし、私自身、その方が好ましいと感じているのですが…何か変ですか?」

間違ったことは言っていないはずだが、何処かずれたようなその答えに、イマクーティ達は顔を見合せ、妙なものを見るような視線をカティーナに向けている。

シャトは特別な反応を見せることもなく、シアンとカティーナの答えをそのまま受け入れたらしかったが、シアンは

「…変ではないけど、そうゆう言い方する奴はあんまりいない…。珍しいとは思う」

と呆れたように笑い、シャトから巻紙を受けとると改めてそれを読みはじめた。

ティーナの言葉に、どうせなら何か出来ることを考えようと思ったらしく、走り書きのようなものまで含めて隅々まで目を通していく。

シアンが風に煽られる紙をシャトの手を借りて広げると、イマクーティ達が揃って顔を上げ山の方へと向けた。

山から吹きおろす風に毛をそよがせながら、耳をぴんと立てている。

何かに耳を澄ませるように集中する姿にシアンは声をかけるのを躊躇ったが、すぐにガーダが口を開いた。

「長老達だ。今から戻ると知らせてきた」

「何か分かったのか?」

「精霊と話は出来たようだが、詳しい話は戻ってからだろう」

「そうか」

シアンは頷いて再び紙に視線を落とし、ぶつぶつと口の中で何かを言いながら、何度も文章を読み返して居るらしい。

シャトは紙を押さえたままその横顔を見つめていたが、不意にオーリスの方を向き、そしてカティーナに尋ねる。

「カティーナさん、舟、戻しても大丈夫ですか?」

「あ、すみません、お願いします。ただ、この浜や街に近付ける前に川の向こう辺りで魔力が薄れるまで少し休ませた方がいいと思います。そのまま近付くとたぶん魔力に当てられます」

「さっきの変な動きはそのせいか」

紙から目を離すことは無かったが、カティーナの声は聞こえているらしく、シアンはそう言ってわざと大袈裟に頭を振り、身体を払う真似をする。

「臭いも取れればいいのですが、風だけでは難しいでしょうか」

「海にでも浸かるか?」

「そうですね、用がすんだら考えます」

二人のやり取りに、それまで真面目な顔をしていたイマクーティ達が表情を緩め、くくく、と笑い声を漏らした。

「お前達を見ていると緊張感が無くなるな。この嵐が大したことじゃないように思えて来る。街に戻れば風呂が使える、湯はいくらでも焚いてやるから気が済むまで洗えばいい」

「よかったなカティーナ、思う存分汚れていいってさ。で、一つ聞きたいんだけど、カティーナは壁に亀裂を作るのも閉じるのも簡単に出来るって思ってていいのか?」

シアンの質問にカティーナは首を横に振り、

「規模によります」

と答える。

その答えに顔を上げたシアンは、何かを考えてるらしいカティーナが続けて話すのを待ちながら、雲の隙間から射した日を浴びてきらきらと光る海を眺めていた。