ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 2

「うん、マルート様に自分は丈夫って言っただけのことはあるのね。傷の回復が早いみたい」

赤毛のイマクーティは微笑みを絶やすことなく、包帯の下を確認すると一歩下がって改めてカティーナの顔を見る。

「昨日もここに来たんだけど、貴方は眠っていたから"はじめまして"ね。私はヒュア、街で薬師をしてるの。本当だったら北にも一緒に行きたかったんだけど、このおなかじゃダメだって止められちゃって」

「カティーナです」

ヒュアはふふふと笑い、床に垂れたカティーナの髪をまとめて反対側へ綺麗に流すと、『知ってるわ』と言ってカーテンを開いた。

青い空に所々浮かんだ雲の眩しさにカティーナが目を細めると、ヒュアは慈愛に満ちた表情で口を開いた。

「…カティーナさん、タドリを助けてくれてありがとう」

ティーナの記憶は部分部分が抜け落ちた様になっていて、ヒュアが言うことが分からず、困ったように眉を寄せる。

「タドリが亀裂から出てしまいそうになった時、貴方に助けられたって、他の二人から聞いたの。でもそのせいで怪我をさせてしまったみたいで…ごめんなさい」

「あの、すみません、記憶が曖昧で…。私の怪我…とその前後の事について、詳しく教えていただけますか?」

ヒュアは"何も話していないの?"とゆう顔でウラルを見た。

「怪我については私も詳しく知らないんです。痛み止めを預かってはきたんですが…」

「そう、そうね。ええと、骨を外に出していたでしょう? その時タドリが危なかったらしいの。それで、貴方がタドリを助けてくれたあと、タドリが足を滑らせて貴方の上に倒れこんだみたい。でも、貴方の傷は…ただぶつけたとゆうものじゃないわ。世界の外から来た何者かの目が残っていたでしょう? その目から貴方が倒れた時に何か、毒なのか、呪なのか、もしかしたら他のものかもしれないけど、そうゆう物が流れ出た。そのせいで貴方の肌や肉が溶けてしまった」

「…溶けた…?」

そう口にしたカティーナは、それまで忘れていたじゅわじゅわと肉が溶けていく感覚と痛みが甦ったのか、早まった鼓動に奥歯を噛み締め、苦しそうに顔を歪ませる。

「大丈夫? ごめんなさい、思い出しちゃったのね…効くかどうか分からないけど、薬飲んでみる?」

ティーナが薬は不要だとゆうつもりで首を振ると、ヒュアはその額に浮かんだ汗を心配そうな表情で拭い、言っていいものかと悩みながらも話を続けた。

「ずいぶん酷かったのよ。タドリが背負って戻ったらしいけど、シャトが居なかったら、腕をなくしていたかも」

「…シャト、さん?」

タドリに背負われたのはぼんやりと覚えてるが、そこから先の記憶のないカティーナは不思議そうにその名前を口にし、何故か雨の中に座り込んだシャトを頭に描く。

「あの子が持ってた薬が効いたの、竜の涙ってゆう薬。呪を払い、毒を中和し、肉体の回復を助ける、そんな薬。…惜し気もなく使えるのがあの子ってとこかしら。タドリもタドリだけどね…。あとはそこにいる精霊にお礼を言うといいわ、薬だけではどうにもならないことをそばで助けてくれていたのよ」

ヒュアが言うと、カティーナの死角から柔らかな光を放つ精霊がすぅーと現れ、微笑んだ。

消耗したカティーナを包み、周囲に魔力を集めることで肉体の回復を助けながら、カティーナ自身の魔力の揺らぎを抑えていた精霊だったが、その姿はまるで鏡の様にカティーナを模している。

その精霊がカティーナに触れると、カティーナはさっき思い描いたシャトの姿が精霊の記憶だとゆうことに気がついた。