ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 5

夜が近付き空が紫色に染まったころ、明かりを持ったシアンがカティーナの休んでいる部屋の扉をノックした。

すぐに『どうぞ』と声が返り、シアンは扉を開けて中を覗く。

包帯の巻かれた身体にシーツを羽織り、ベットに腰掛けたカティーナはシアンを見て軽く頭を下げた。

その隣ではヒュアが傷の手当てを終えたのか、包帯や何かを片付けながらシアンを見て微笑んでいる。

「お帰りなさい」

「どうも。ヒュアさんが手当てしてるんですね。…朝は起き上がれなかったって聞いたんだけど、起きて平気なの?」

シアンは扉を閉めるとカティーナのそばにある椅子に座り、包帯で巻かれた腕をまじまじと見る。

「まだ治りきっていませんし少し痛みますが、腕を無理に動かさなければ平気です」

「私も驚いたわ。朝は起き上がれるようになるのにも時間かかるかなって思ったのに、さっき来たら一人で歩いてるんだもの」

ヒュアは片付け終えた荷物を抱えて呆れたように笑い、『でもよかった』と言いながらカーテンを閉めた。

揺らぐ蝋燭の明かりがカーテンに柔らかな影を落としている。

「私はそろそろ帰るけど、また明日の朝傷を見に来るから…カティーナさん、動けるからって無理しちゃ嫌よ? シアンさんも良く休んで」

二人がそれに応えると、『じゃあね』と言ったヒュアは背を向けて手をひらひらと振りながら部屋を出ていった。

魔石の明かりは絞られていて、扉が閉まりヒュアが使っていた蝋燭の明かりがなくなると部屋はずいぶん暗くなる。

シアンは少しだけ光を強め、カティーナの顔と巻かれた包帯を改めて見て、

「あれだけの傷がもう平気って、カティーナの身体どうなってるんだ?」

と腕を組み口を曲げて首を捻った。

「シアンさんも傷を見たんですか?」

「シャトがとりあえずの手当てした時横にいたからな。骨が見えるんじゃないかってくらいえぐれてるのに血は出てなくて、変な傷だったよ。まぁ血が出てたらこうして話せてなかったかも知れないけどさ…。とにかく、思ったよりひどくないみたいでよかった…ほんと、安心したわ」

「ご心配おかけしました」

シアンはにっと笑ったが、すぐに真顔に戻り、躊躇いがちに尋ねる。

「シャトかタドリと会った?」

「いいえ。何か元気がないようだとお聞きしましたが…?」

「ん。まぁ、そうだな。そっか…」

シアンは片方の足首をもう片方の膝に上げ、その上で頬杖をついた。

「言って良いのかわからないけど、二人とも、自分のせいで危ない目に合わせた、大怪我させた、ってふさぎ込んでる。シャトはカティーナが怪我してから二晩寝てなかったみたいで、ついさっきやっと眠ったって聞いた。タドリは家から出て来ないってヒュアさんが言ってたし、ちょっと心配でさ」

「私が怪我をしたのはお二人のせいとゆう訳じゃ…それに私を運んでくれたのはタドリさんで、手当てはシャトさんが…。むしろお礼を言わなければと」

二人の話はそこで途切れ、それぞれ何かを考えているのか床や壁を見つめている。

しばらくそのまま沈黙が流れていたが、小さく響いたノックの音にカティーナは顔を上げ、『どうぞ』と少しかすれた声で応えた。