雨の後 12
タドリが少し落ち着いたところでシアンはその腕に触れ、治癒力を高める様に魔力を込めた。
そしてそれ以上自分が残っていても出来ることはないだろうと、その場を後にし、リファルナの元へ向かったが、耳に残ったタドリの泣き声に気を取られていたらしい。
スティオンの家の戸をノックもせずに開き、足を一歩踏み入れた瞬間、シアンは足の感覚が鈍くなるのを感じ"まずい"と身体に力を込め踏み止まろうとしたが、すぐに感覚が元に戻りその場で首をひねって固まる。
少し先の椅子に座っていたリファルナはふぁーと大きな欠伸をしながら気持ち良さそうに腕を伸ばし、『良く寝たー』と言ってシアンに笑いかけた。
リファルナが眠りに落ちてから一時間と経ってはいないが、ずいぶんとすっきりした顔をしている。
「おはよう」
「あ、おはようございます。今、あの…何かしてましたか?」
「あぁ、ごめんねー。少し寝ようと思って感覚落としてたの。シアンさんちょうどいい目覚ましだったわ…。さて、じゃあお仕事頼んでいい?」
リファルナは北から持ってきたとゆういくつもの本や何かを積んだ机と、魔術式の一部なのか二種類の図形が描かれた紙を指差し、その本を内容と紙の図形を元に三種類に分けることをシアンに頼むと、自分は朝読んでいた分厚い本を手に取った。
しばらく何も会話のないまま作業を進めていた二人だったが、リファルナは突然『何かあったの?』と尋ね、シアンは困ったように眉を寄せる。
それから少し悩んでいたが、カティーナが怪我をしてからの事、そしてついさっき見たタドリの傷や様子などを話し、それが少し大袈裟にも感じる、と一旦手を止めてリファルナを見た。
「タドリ君まだ子供だし、そうゆうことだってあるんじゃない? 自分のせいで誰かが死ぬ、今回でゆうなら死にかける、なんて私は経験無いし、分からないけどね」
リファルナは手も目も止めることなく答えたが、タドリやシャトを思い浮かべると少しだけ表情を曇らせ、何がとは言わなかったが『嫌になるわね』と呟いた。
一日リファルナの手伝いをしていたシアンが夕暮れの中を歩いている。
街は夜へと向けて動き、家々からは夕食の準備の煙が上がっていた。
海の見える場所でぼんやり夕空を眺めていると背後から声がかかり、振り返ったシアンは篭をさげたシャトとウラルを見て『おう』と応えた。
「何を見てたの?」
「夕焼けと…海?」
海の向こうに見える山に沈む夕日を眺め、三人はゆっくりと歩き出す。
「タドリ大丈夫だった?」
「はい。さっき、一緒にカティーナさんのところへ…」
「そっか。カティーナもタドリの事心配してたから、よかった」
「はい」
シャトの穏やかな顔の隣でウラルはどこか寂しそうに見えたが、三人はそのまま何でもない話題をあれこれと話し、カティーナの休んでいる家へと向かっていく。
傷の回復したカティーナは二階の窓辺から街を見下ろし、並んで歩く三人に気付くと手を振り、振り返された手に優しげに微笑んだ。