ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 4

聞こえたノックに返事をし、カティーナは身構える様に表情を硬くした。

「入って構わないか?」

顔を覗かせたガーダに少し詰まった声で『どうぞ』と答えたカティーナは、身体を起こそうとしたが、途中で断念し、横になったままでガーダに視線を向ける。

ヒュアやウラルとは違い、そばに寄ることはなく離れた場所で腕を組んだガーダは、窓の方を向き外から聞こえて来る騒ぎ声にため息をついた。

「今回の事で人を嫌う者達が勢いづいてな。昨日の夜シャトの父親が北の後始末の為に魔術師を連れて来たのだが、その後も街に住む事になるのではと、長老達が行く先々であの騒ぎだ」

ティーナが何も答えないでいると、ガーダはちらとその顔を見て、部屋の外に誰もいない事を確かめてから改めて話し出した。

「そう警戒するな。さっき言ったことは事実だが…すまなかった。それについて何かを言うつもりはないんだ。それに、最初から腕の包帯は別に巻いた、ウラル達には古い傷があるようだから身体の包帯は取るなとも言ってある。気を張らなくともいい、身体を治すことだけ考えてくれ」

ティーナは一度視線を床に落とすとそのままじっと一点を見つめ、見間違いかと思うほどに小さく頷く。

ガーダは一つ咳ばらいをすると、改めて口を開いた。

「…今日は様子を見に寄っただけだったが、無事目覚めたようで何よりだ。動けるようになれば長老達から改めて挨拶があるだろうが、北の始末、そしてタドリの事、私からも礼を言わせてくれ」

「いえ…大した事はしていません。ご迷惑をおかけしたようですし、お礼など…」

「ふむ…まぁ、いい。食事はとれそうか? ウラル達は何も言わずに戻ってしまったろう、何か食べたい物があるなら用意をするが」

ガーダはカティーナの様子にそれ以上その話題に触れるのはやめるべきか、と話を変え、カティーナの顔を窺った。

「遠慮する必要はない。どちらにしろ出来る物と出来ない物がある、言うだけ言ってみろ」

「…生の、魚か、肉か、出来るなら、そうゆう物を…」

「…分かった。出来るだけ早く届けさせよう」

躊躇いながら言ったティーナにガーダは少し驚きながらもそう返し、部屋を出て行こうとしたところで何かに気付いた様に立ち止まった。

そして腰に下げていた鞄から小さな袋を取り出すと、

「預かったのを忘れていた。群れのちび達から見舞いだそうだ」

と袋の口を開き、カティーナに中が見えるように差し出す。

中にはきらきらとした石や木の実、草で編まれた小さな人形などが入っていて、それを見たカティーナは少しの間のあとでふっと表情を緩めた。

「ありがとうこざいます。喜んでいたと伝えてくれますか?」

ガーダが頷き、それを棚に乗せると、

「私はここを離れるが、誰かしらはここに居る様にしている。何かあったら呼ぶといい」

と言い残しそのまま部屋を出て行った。

ティーナは自分に身体に巻かれた包帯に触れると、きゅっと唇を噛んだが、過ぎった不快感を振り払う様に大きく息を吐く。

そして本当に微かに、同じ部屋に居ても聞き取れないのではないか、とゆう程小さな声で、ゆったりと歌を歌い始めた。