ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 3

ティーナは精霊を通して見た光景を不思議な気持ちで思い返す。

自分を抱えて泣くタドリ、濡れた地面に座り込むシャト、そのそばで立ち尽くすシアン、心配そうなイマクーティ達とオーリス。

そしていくつもの精霊の姿。

「ご心配をおかけしたみたいですね…」

実感が伴わないその光景に何処か他人事の様に呟いたカティーナのそばで、精霊は姿を解き、丸い光に変わる。

「…ありがとうございました。もう大丈夫です」

精霊はふわりと天井まで浮き上がったかと思うと部屋の中をゆったりと飛び回り、ふっと姿を消した。

後には優しい気配が残り、三人はその気配に目を細めたが、

「シャトさんとタドリさんにもお礼を言わなくてはなりませんね」

ティーナのその言葉に、それまで微笑みを絶やさなかったヒュアの顔が一瞬曇り、ウラルは気遣わしげに視線を伏せる。

ティーナはその姿に眉を寄せ、ヒュアに尋ねた。

「何かあったのですか?」

「いえ、何かがあった訳ではないんでけれど、二人ともちょっとね…。貴方が目を覚ました事を伝えれば元気になるでしょう…」

実際にはそのくらいで好転する訳はない、とヒュアはシャトとタドリが心配でならなかったが、それを気取られない様に努めて明るくそう言った。

そして棚の上に置かれたままだったお盆を取り、ベッドの横に置かれた椅子を台がわりに包帯や薬を用意をしようとするが、カティーナは大きな声でそれに拒否を示した。

「…っ! あ、いえ、あの、すみません」

二人が目を丸くするとカティーナは"やってしまった"といった風に視線を泳がせ、声を下げ続ける。

「自分で回復を早める事が出来ますから、どうか、お気遣いなく」

「いや、でも…いくら治りが早いって言ってもまだ生傷よ? 当てた布と包帯くらい…」

「大丈夫です」

頑なに手当てを拒むカティーナにヒュアとウラルが困っていると、部屋の外で話を聞いていたらしいガーダが入ってくるなり口を開いた。

「包帯を替えるのは腕と肩だけだが、娘共の手を借りたくないとゆうなら私が替えてやる。身体の包帯を巻いたのも、身体を清めたのも私だからな」

ガーダの言葉の裏をにあるものをはっきりと受けとったカティーナは『すみません』と謝ると、ヒュアに手当を任せる事にしてガーダに視線を向けるが、ガーダはそれに気付かない振りをして部屋を出て行こうとする。

「話したいこともある、表にいるから終わったら声をかけてくれ」

ガーダを呼び止めようか迷っていたカティーナだったが、立ち止まってそう言い残したガーダをそのまま見送り、大人しく傷の手当てを受けることにした。

「布に竜の涙を染み込ませて覆うの。回復も早くなるし、何もなく治すよりひっつりも少なくきれいに治るわ。利き腕みたいだし、きちんと治るまで手当てさせてね」

「すみません」

再び謝るカティーナに、何も言わずに手を動かしていたヒュアだったが、新しい包帯を手に取ると少しだけ悲しそうな顔をして、

「ごめんなさい…謝らないで。貴方に傷を残したくないのは、貴方のためだけじゃないの」

と無理に微笑んだ。

ティーナはどうゆう事なのか聞き返したかったが、外から聞こえた騒ぎに機会を失い、『また騒いでるのね』と手早く包帯を巻き直したヒュアとウラルが軽い挨拶を残し足早に部屋を出て行く後ろ姿をただただ見送っていた。