ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

北の街へ 3

食事を終えた三人はオーリスの先導で洞窟に向かっていく。

崖のそばへ寄るにしたがって、辺りの空気が冷たくなった。

「なんか、急に寒くなったな…」

普段なら辺りがどれだけ寒くても自身の魔力で体温を保つ事ができるシアンだが、今はそうしていない。

ナガコの元での魔力切れからはある程度時間が経っているが、まだ回復しきっていないらしく、もしもの時を考えて温存しているのだろう。

魔力は他者から譲り受けるか、時間の経過を待つ他に回復の術はない。

「シアンさんも言っていましたけれど、洞窟を抜ければすぐにイクイオアメイです。この洞窟は山からの風が吹き込みます。その風が冷気を運ぶので他の洞窟と比べると温度が低いんです」

シャトはそう言いながらローブを羽織る。

ティーナは平気なようだが、シアンはローブを取り出した。

そのローブはシアンには少し丈が長かった為、裾が地面に触らないように長さを合わせ腰のところを縄で縛る。

若干のだぶつきはあるものの、邪魔になる程ではないようだった。

歩くことに支障が無いかシアンはが確かめると、そのまま一行は洞窟に向かって崖沿いの道を上りはじめる。

「こんな格好したことないな」

シアンの言葉に、シャトが何かを思いだそうとひとりで何かを呟いている。

「…海…いむ、イム…イムオース? イムオースであってますか? シアンさんの街は寒くないんですか?」

「ああ、東の海沿いではあるけど、ここからだとずいぶん南だし、ここしばらくは南側の街を転々としてたからな」

シアンは長い袖を持て余しているのか、おちつきなく腕を動かしている。

「長く旅をなさっているんですか?」

「そろそろ二年? そういえば、クラーナさんにも聞かれたな…。まぁ旅してるって言っても、別に目的がある訳じゃないから、いつもいきあたりばったりだよ? 今と一緒」

シアンはどこか自嘲を含んだ声でそう言った。

ティーナは二人の話を静かに聞いていたが、ふと思いついたように口を開いた。

「ここが大陸だ、とゆう事は分かっているのですが、詳しく教えていただけますか?」

「詳しくって言われてもな、あんまり知らないぞ? 大陸図なんて持ってないし…何となく覚えてることだけでいいなら、北側から西側は殆ど山だな。そんで北側、イクイオアメイって呼ばれる辺りは雪が解けないから、年中山が白い」

「そうですね、家の辺りから西は山も険しいですし、人の街はないようです。…南には行ったことがないので、はっきりとは分かりませんが、それぞれ山を境に大陸を三つに分けて考えるそうですよ?」

「あぁ、そんな感じだな…、北側の山地一帯、ちょうどこの山辺りから南の山脈までが中央部、それでまた山脈からの南側一帯。南は他の大陸の影響を受けてるらしくて文化も何も全く別物だったよ」

シアンとシャトはお互いの話を補足するように交代に喋る。

「中央部でも、北と南ではずいぶん違うようですし、ひとつの村や街とゆう事ではなくて、独自の文化でまとまった国…? とゆうんでしょうか、そうゆうものもありますね」

ティーナは与えられた情報を反芻しているのか黙ったまま宙を見つめている。

 

シアンは洞窟に入ろうとゆうところで、『あ…』と声を上げた。

「聞くの忘れてた、ってゆうか聞かないでついてきた私等も私等だな…」

独り言のように一度声が小さくなったが、シアンは続ける。

「北に何しに行くの? ここまで来たし、何しに行くんでもついてくけどさ」

「え、私、言いませんでした…? …言ってないですね…ごめんなさい」

記憶をたどって、シャトは立ち止まり頭を下げる。

そして、何から話したものかと考えながら再び歩き出した。

 

微かだが奥から吹く風が冷たい…魔石の明かりに照らされた洞窟に踏みいると、岩自体が冷気を蓄えているのか外で感じた以上の寒さが襲ってくる。

シアンは小さく身震いをすると、ローブの肩口を掻き合わせ、シャトの横顔を見つめていた。