ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

結界

「結界くらいどこの村だって張ってるよ。山の中なら尚更だ。まぁ、村を囲むように結界が張ってあるんだとしたらそれは珍しいけどな」

シアンがそう言うと、カティーナは何もない空間に手を伸ばしていくが、中途半端に肘が曲がった状態で動きが止まる。

一度引いた手を再び伸ばすとまた同じ格好で止まり、

「何かに触れた感じはありませんが、これ以上進めないとゆうのは不思議なものですね」

と自分の手の先を見つめている。

「この橋以外から村に入ることは出来ないの。…早く行きましょう、夜になればここも結界を閉じるから、入れなくなるわ」

先に行くジェナについて歩きはじめた三人、カティーナはシアンに結界について尋ねている。

「村を囲むような結界が珍しいとゆうのは何故ですか?」

「規模が大きくなればそれだけ維持に使う力も増えるからな。大抵は何かがあった時に逃げ込むとこの出入口とか、荒らされては困る場所、祈りの場とか井戸とか、そうゆう決まったところにだけ張ってある」

結界を張るには魔力の六系統全ての力が必要だとか、通過するモノを選べばいろんな使い方があるとか、シアンはそうゆうことを話しながら、ふと何かが気になったらしく一度口を閉じ、しばらくすると改めて開いた。

「シャトが人を連れて来るのが珍しいって言ってたけど、あの時あんた最初からあそこに居るのがシャトと私等だって判ってたの?」

ジェナは歩みを止めることは無かったが、

「半々てところかしら。先にオーリスがクラーナさんからの荷物と手紙を届けに来てたから、シャトが三人で歩いてるのは判ってたの」

と、言って地面を指差して振り返る。

「あそこより手前で何か感じなかった?」

シアンに、とゆうよりは結界に反応したカティーナに、と言った感じで問い掛けたジェナに、カティーナは小さいながらも頷いた。

「一瞬ですが地面に魔力を」

「それも結界みたいに村を囲むように巡らせてあるんだけど、何かが通ると分かるのよ。ある程度の大きさと数程度だけどね」

「…そうゆう事、外の人間に漏らしていいの?」

シアンが聞くと、ジェナは『うーん…』と考えるように唸ったが、

「元々が魔獣とか狂獣相手に張られてるもので、人を相手にする意図は無いし、シャトのお客さんならまぁ構わないんじゃない?」

と言い、その後で『何かがあっても前に立つのは私達だしね』と何でも無いことのように続けた。

森が開け、簡単な柵に囲われた畑や人の背丈ほどの石垣の上に立つ家々が見えるとジェナは立ち止まり、奥から歩いてきたシャールは笑顔で一行を出迎えた。

「…改めて、ようこそアウェイクへ」

村の中央らしい広場のあちこちで篝火が焚かれ、辺りには人が行き交っている。

「祭は明日の朝なんだけど、まだ少し準備が残ってるの。慌ただしくてごめんね」

シアンは辺りを見回すとジェナとシャールを見上げ、また広場を行き交う人々へと視線を戻す。

「…人の村だったんだ」

「えぇ。村の亜人は私達と父だけ」

「こんなとこに立っていても仕方がないから、まずは家に来て。父の姿には少し驚くかもしれないけど」

二人について歩き出すと村外れで鐘が鳴った。

「今日は少し早いわね」

その鐘の音が結界を閉じる合図らしく、二人と同じように広場を行き交う人々も同じような事を言っている。

ティーナは空を見上げ、村を包むように張られた見えない結界を感じながら、前を行く四人から少し遅れて歩いていた。