魔神の棲む山 11
皆がデザートを食べ終わると、クラーナが男の子に声をかける。
「キリオ、お風呂お願いしてもいいかしら?」
「わかった、行ってくる」
キリオはシアンとカティーナに向かって小さくお辞儀をすると、暗くなった外へと出ていった。
「お湯を沸かすなら、私やりましょうか?」
シアンはキリオの背中を見送りながら誰にともなく尋ねた。
「あら、嬉しい! でも、うちのお風呂は薪で焚くの。少し時間はかかるけど、沸いたらシアンさん達から入ってね。シャワーが良ければ、それはシアンさんにお願いするけど?」
クラーナがそう言うと、シアンは少しぼんやりしてから応える。
「シャワーは別に…必要ならやりますよ? あと、私達最後で大丈夫ですから」
『な?』とカティーナに振って、シアンはあくびを噛み殺す。
酔ったせいか口調がいつもの調子に戻ってきている。
カティーナはそれを横目にクラーナに向かって口を開く。
「先に入らせていただくのは申し訳ないです。お湯が使えるとゆうだけで十分ですので、私達は最後に…」
「気にしなくていいのよ。お客様なんだから、遠慮なくどうぞ」
カティーナはシアンを見るが、シアンは椅子の上でうとうとし始めていた。
「カティーナさんからですね」
その様子を見つめていたシャトがそう言って微笑んだ。
しばらくして、キリオがお風呂が沸いた事を伝えに戻ってきた。
「じゃあ、私達戻るわね」
「どうぞごゆっくり」
クラーナとシャトを残し、大叔父夫妻と従姉はそれぞれにカティーナに声をかけ、キリオは小さく頭を下げて外に出ていく。
カティーナは会釈で見送り、シャトに尋ねる。
「皆さん別々に住んでらっしゃるのですか?」
「今は2軒にわかれていて、私達以外は皆同じ家ですよ。冬場はこの家で過ごしますし、食事はいつも一緒ですけれど。…カティーナさん、お風呂案内しますから、行きましょう?」
カティーナはクラーナに挨拶をすると、申し訳なさそうにシャトの後について行った。
クラーナは洗い終わった食器の水気を切り、棚にしまい始める。
「クラーナさん?」
その声に振り向くと、それまで寝息を立てていたシアンが眉間にしわを寄せ、顔を上げていた。
「あら、眠ってたんじゃないの?」
「寝てました。今起きました」
「カティーナさんがあがったら、お風呂シアンさんの番よ?」
シアンは自分がどれだけ眠っていたのかと、首を傾げるが、少しして頷いた。
そしてまだぼんやりしている頭で、気になっていた事を口にする。
「あの、キリオくん…でしたっけ? あの子は?」
クラーナは肝心なところの抜けた質問でも、意図を解したらしく、迷わずに答える。
「血はつながってないけど、でも、家族よ?」
「そうですか…」
シアンは暗くなった外を見つめ、複雑な顔をしている。
「何か、気になる?」
「え? あ、いえ、すみません」
シアンは頭がはっきりしてきたのか、表情を引き締め、深呼吸をする。
「あの子も獣遣いなんですか?」
さっきの複雑な顔のあとはなく、世間話のような、なんでもない質問だった。
「ええ。見たことがある? 魔力を扱える獣遣い」
「街にいた獣遣いがそうでした。珍しいんだって聞きましたが」
「そうね、私が知っているだけで十ニ〜三に系統が分かれるけど、その内ニつだけね、魔力を扱えるのは。知らない人も多いんじゃないかしら」
そこにシャトが戻ってきて、話が途切れる。
「目、覚めたんですね…シアンさん、寝間着、どうしますか?」
唐突な質問にシアンは首を傾げ、『普段は、この、まま、だけど…?』と語尾に ? のついた答えを返した。