ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

傭兵団の陣

『シャトねーさん』と駆け寄ってきた子供を見て、シアンは改めて首を傾げた。

顔立ちはキリオとよく似てはいるが、近づくと別人なのが判る。

シャトはその子供を相手に微笑むと

「少し背が伸びた?」

と声をかける。

「少しだけ。でもキリオも伸びててやっぱりほとんど変わらないの」

「そう。こっちでの生活はどう?」

「…頑張ってる…」

言葉を濁すようにして笑顔を作った子供は、背伸びをしてシャトの肩越しにシアンとカティーナを覗き込む。

薄青い髪に、左右で色の違う瞳、魔力の適性は全部が全部遺伝で決まるわけではないが、顔立ちとその特徴をまとめて見ると、キリオとの血の繋がりがあるのだろうと感じられる。

「双子?」

ずいぶん言葉が足らないだろうがシアンの言いたいことをシャトは理解したらしく、『ティオの方が上です、お姉さん』と言ったあとで改めてその子を紹介する。

「キリオの姉でティオといいます。今は傭兵団の中で生活していますが、去年までは家の方に」

「はじめまして。シアンさんとカティーナさん…?」

キリオやルイテから聞いていたのか、二人が名乗る前からティオはそう言って、キリオとは違う人懐っこい笑みを浮かべる。

その後ろ、少し離れた辺りでは数人がちらちらと四人を窺っているが、ティオを含めて皆が同じ服装をしているようだった。

ティーナが履いている物と同じ靴で裾を絞ったズボン、前で合わせられた体型を隠すような少し大きめの上着は腰の所で紐で留め、何故か見えるところに居る者の多くがその中に着ている首にゆとりを持たせたシャツを鼻の上まで引き上げて顔を隠している。

「とりあえず、頭領のところに…。そうじゃないと皆落ち着きませんから」

シャトについて陣の中へと足を踏み入れると、やはり獣遣いの一団とゆう事なのか、ほぼ全員が色のない髪と瞳で、やはりティオは年齢の事もあるだろうがその色だけでも少し浮いているように見える。

ルイテは人当たりのいい仲間だといっていたはずだが、どうにも警戒されているような居心地の悪さを感じて、シアンはシャトの服を引っ張った。

「私等が居て平気?」

「大丈夫です」

シャトは陣の中を進んでいくが、辺りには組んだ骨組みを覆う形のしっかりとした幕がいくつも張られていて、二、三日の滞在では無いのだろう事が窺える。

その中でも一際大きな幕の前で立ち止まったシャトは『シャトです』と声をかけた。

「お入り」

「失礼します」

中には男性が一人、沢山の魚が泳ぐ鉢を背にするように入り口の正面の椅子に座っている。

老人とゆうほど老いてはいなさそうに見えるが、その目や声にはすべてを包み込むような何かが感じられ、シャトの表情もいつもより柔らかく見えた。

「久しぶりだね」

「はい、ご無沙汰しておりまして申し訳ありません」

「いや、シャトが元気にしていればそれでいい。その二人がルイテが話していた知り合いかい? よく来たね。緊張することはない、お座りなさい」

頭領なのだろうその男性は机を挟む位置に置かれた折りたたみの椅子をすすめ、目を細める。

三人が椅子に座ると、頭領は柔和な笑みを浮かべてそれぞれの顔を眺め、静かに頭を下げた。

「私はグドラマ。イーコニ(命)のまとめ役をしている」

イーコニはグドラマのまとめる傭兵団の名だったが、シアンとカティーナは一瞬何かに違和感を覚えた。

ただそれが何なのか考える間もなく名を呼ばれ、二人は挨拶がまだだったことに気付いて揃って頭を下げた。

「畏まらないでおくれ、ここはシャトにとっては二つ目の家族。ゆっくりしていくといい」

「「ありがとうございます」」

合わせたわけでもなく揃った二人の声にグドラマはまた目を細め、振り返ると魚の入った鉢の中へとそっと手を差し入れる。

「皆歓迎してくれるだろう。今日は泊まってお行き」

グドラマがそう言ったかと思うと入り口の幕が勢いよく開かれ、さきほどまでとは違い上着を脱ぎ、顔を隠すこともしていない男たちがティオと一緒になだれ込んできた。