ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 10

ティーナの質問に大叔父が答える。

「世界全体として、狂気に飲まれる者が増えているようでね。この数百年、なんて言われているが、本当の所、いつからなのかは分からない。海に棲む者たちも同じで、それまでは結界を張り、時には戦う事で海の脅威を越えていたらしい船が、次々に沈んだそうだよ。今では外海に出ようとする者はまずいない」

「狂気、とゆうのはどういったものなのですか?」

「魔力の嵐はわかるかな? あれに巻き込まれると、時に世界の外へと投げ出されるらしい。他の世界でも同じような事が起きているんだろうが、この世界から出たものか、そうでないかは重要ではないかな…」

大叔父は一度言葉を切ると、グラスを干し、女性たちに向かっておかわりを求める仕草をして、また話し出す。

「魔力の海に長い事晒されると、意識がおかしくなるそうだ。本能のままに行動するようになる。そしてその身に纏った魔力と共に狂気を当たりに撒き散らし、その気に当てられたものは自我は残っていても、良くない事を引き起こすとゆう事だ。狂気に飲まれる者が増えれば、より、"世界の秩序"とでも言ったものが崩れやすくなる。…まあ、この辺りはどこかの魔術師だか神格者だかが語ったと言われている言い伝えの様なものなのだがね」

「他の…海を越えてきた方々も、狂気に飲まれる事があったとゆう事ですか?」

ティーナのその質問に、大叔父もシャトも困った顔をしている。

「海を越えて、なお狂気に飲まれていないとゆう方は大抵強い力を持っています。詳しい事は分かりませんけれど、以前ナガコさんから聞きました。元々は別の世界で暮らしていた事は覚えているけれど、その他は、元の自分ではないと。ナガコさんは"器"があるかどうかだと、言っていました。魔力の海に落ちても、器があれば新しい何かになると。海の中で、すべての知識を見るとゆう事ですが、魔神と呼ばれる程の力を持ったナガコさんでも、全てを受け入れられたわけではないそうです」

シャトはそこまで話すと視線で、大叔父にそこから先の話し手を任せたようだった。

「シャトの話も、これから私が話す事も、あくまで、そうらしい、とゆう程度の事だと思って聞いていた方がいい。…知人の妻は別の世界から来た"何か"の孫に当たる女性でね。その祖母が"何か"だった訳だが、その何かは自分の力でこの世界にやって来て、なんの問題もなく暫しこの世界で過ごした後、また別の世界へと旅立ったと。知人の妻も一部ではあるのだろうが、確かに強い力を受け継いでいるよ」

ティーナを見ながら、大叔父はなお話を続ける。

「…狂気に飲まれた者の血筋、子や孫に当たる者の事も知っているが、狂気に飲まれた者は、海を越えたとゆうより、ただ流れついたと言った方が正確なのではないかな」

「海を越えられる力があれば、狂気には飲まれないと?」

「まあ、そうゆう事になるが、自力で越えてきたわけではないナガコ様も、狂気とは縁遠い。そのあたりの事は確かな話が無いからね。ただ、海を越えたと聞いて、カティーナさんの様に人の中に混じっている…とゆうのは変だな、人と変わらない様子でいる者は見かけない。だからこそ、驚かれることはないかと聞いたのだけれどね」

ティーナはそれまでの話を理解したのかどうか、自分で判断出来ていない様子だったが、皿の上に残っていた料理に手を付け、黙々と口に運ぶ。

「さぁ! 難しい話が終わったのならデザートにしましょう!!」

いつの間にか料理はほとんど無くなっていて、クラーナその声で、シャトが空になったお皿を片付け始める。

シアンは、お酒に頬を染めてはいたが、途中からはカティーナ達の話に耳を傾けていたようで、そちらに体を向けグラスを傾けていた。