ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

闇の日の祭

夜明けはまだ遠く、黒い空には星が輝いている。

広場の中央に飾られた祭壇の輪郭を星明かりが淡く浮かび上がらせ、それを囲むように黒い影がいくつも並んでいるが、どうやら村の男達が祭壇に背を向けるようにして何かを手に座っているらしい。

澄んだ鐘の音が辺りに響くと、何処からか足音無く六つの影が広場に現れる。

幾度目かの鐘の音にあわせて祭壇を囲んだ男の一人が強く腕を振った。

よく張った太鼓の音が響く…。

そのあとに続くように小さな鈴の音が聞こえ、その音が段々と大きくなっていく。

二度目の太鼓の音で鈴の音が止み、広場に現れた影はその身体を覆っていたらしい布を大きくなびかせるように取り払う。

村の娘が六人、ゆったりと波打つような黒いスカートを軽くつまみ、祭壇に向かって頭を下げるように身体を倒すと、その胸元や耳に飾られた石が揺れた。

三度目の太鼓の音がそれまでよりも大きく響くと、その音に合わせたかのように胸元や耳だけでなく、腕や脚にも付けられているらしい石が白く輝き、娘達はそれを待っていたかのようにスカートを翻し再び聞こえはじめた鈴の音と共に軽やかに舞いはじめる。

笛、太鼓、鈴、段々と大きく音に合わせて娘達が身につけた石のきらめきが増し、くるりくるりと回る度に大きく広がるスカートと娘達の姿が広場を取り囲むように集まっている皆の目にはっきりと映っている。

儀式的な要素の強い祭だからか、広場を囲むように集まっている村人達は声を上げることなくその姿を見つめているが、時々、大きく上がる脚に、翻るスカートに、微かに息に声がのる。

その多くはまだ幼い娘達のもので、いつか自分もとゆう思いが漏れ出しているのだろう、自分の声に気付くと恥ずかしげに顔を伏せる姿がちらほらと見受けられた。

 

徐々に早くなる音楽と共に娘達の脚も早まり、くるくるとスカートを翻しながら、祭壇の周りを回る。

一際大きく鳴り響いた太鼓の音で娘達は地に伏し、辺りは静まりかえった。

 

響石と呼ばれる石がある。

周囲の音に反応して白い光を放つその石は、ただ光るだけではなく、もう一つある特徴がある。

 

静けさの中、微かに鳴りだした鈴の音に娘達の身につけた響石が淡く光を放つが、それはそれまでの白い光ではなく、紫、黄、橙、青、緑、赤と一人一人色が異なっている。

込められた魔力に応じて色を変える光に彩られ、先ほどまでよりもゆったりと娘達はその身を翻す。

空が白み始める頃、高らかに鳴らされる楽器の音にあわせて舞い踊っていた娘達はくるりくるりと回りながら広場を後にし、娘達の姿が見えなくなると鈴の音を最後に音が止む。

楽器を抱えた男達が祭壇に向き直ると、周囲に村人が集まり精霊に祈りを捧げ始めた。

 

「これでおしまい?」

声を抑えたシアンが隣に座っているシャトに尋ねている。

音楽も踊りもなかなかのもので、シアンはじっと見入っていたが、確かクラーナは"天気がいいから綺麗"と言っていたはず、と空を見上げる。

闇の中に浮かぶ光に天気に関係ないのではと思っているらしい。

「いいえ、もう少し続きます」

少し眠いのか、シャトの話し方はいつもよりゆっくりで、ふっと微笑んだ顔は疲れているようにも見える。

 

祭が始まる前、シアンはシャトに起こされた。

夜中、シャトの様子を見に行った後はそう時間を置かずに眠ったはずだが、広場に来てからもあくびを噛み殺していたシアンは、シャトはいつ寝たんだろう、とおもいながら隣に座る姿をしばらく眺めていた。

起きたときにはすでに家にいなかったジェナとシャールは踊り手として祭に参加していて、少し離れた場所にはレノとアルナの姿もある。

ティーナも音楽や踊りが好きだったらしく、柔らかな表情で時折身体を揺らしていた。

 

「そろそろですね」

空がずいぶんと明るくなり、祭壇に祈りを捧げていた村人達はまた広場を囲むように大きな輪を作る。

先ほどの黒い衣装から真っ白い衣装に変わった娘達はその頭から白い布を被り、祭壇を囲むように並ぶ。

男達が楽器を手に祭壇に背を向け、鈴の音が響き始める。

祭壇のてっぺんについた石が朝日を浴びて周囲に光りを撒き散らすと、楽しげな音楽とともに被っていた布を広げ、軽やかに娘達が踊りはじめた。