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「…大丈夫でしょう」
ジェナはそれがシャトの事だと分かっているのかいないのか、ため息混じりに答えると、再び顔を仰向けて濡れた布を被った。
「シャトが傭兵団に行く前にね、言ってたの。傷付くのなんか見たくないって」
シャールがジェナに投げ掛けると、少し間をおいて『…馬鹿なの?』とジェナはシャールに返す。
不思議なことにシャールのその言葉だけですべてを察したらしいジェナは、
「私達とシャトじゃ話が違う」
と、小さく言い『馬鹿なの?』と繰り返した。
「…ごめんね」
二人のやり取りを黙って見ていたシアンはシャールの口から出た"傭兵団"とゆう言葉に引っ掛かったらしく、他にも聞きたい事があるらしかったが、二人が黙ると口を開いた。
「シャトって傭兵団に入ってたの?」
顔から布を取ったジェナとシャールはシアンの顔を見た後で眉を寄せて顔を見合わせている。
シャトが人を連れて来るのは珍しい、珍しいことをするくらいには打ち解けた仲なのかと思っていた二人は、首を傾げるように改めてシアンを見た。
「入ってた、とゆうか、獣遣いの多くは何年かそこにいるのが当たり前らしいけど…?」
そう言われたシアンは何かを思い出そうとしているのか俯いてぶつぶつと独り言を漏らしている。
そのうちに何かが繋がったのか、顔をあげ、
「なんか修業みたいなやつに行くっていうのがそれか」
と言った。
二人に言うとゆうよりは自分で納得するために口に出したようだった。
シアンはシャトから聞いた訳ではなかったが、二人はシアンの言葉に頷いている。
そこで一旦会話が途切れ、ジェナはふぅー、と息を吐きながら湯から上ると、
「どうなってるか確認する前にシャト呼ぼうとするから私思わず睨んじゃったのよね」
と困った顔でシャールを見る。
「今更気にしないんじゃない?」
「まぁそれはそうなんだけど、なんか…」
ジェナはこきこきと首を回し再び大きく息を吐く。
『別にいいんだけどさぁ』とジェナが川に入ろうとしたところに、囲いからひょこっとアルナが顔を覗かせた。
「服、持ってきたわよ」
「あー、ありがとう。向こうどうした?」
「とりあえずは大丈夫。シャトはしばらくついてるつもりみたいだから、後でまた様子見に行くわ。夕飯の用意してるから、てきとうに戻ってね」
アルナは荷物を置くとシアンに笑って手を振り、足早に帰っていく。
その足音が遠ざかるのを聞きながら、シアンもシャールも湯から上がり、川を見ながら涼みはじめる。
「二人はここ離れようと思ったことないの?」
シアンの質問は唐突だったが、ジェナもシャールも特に考えることもなく、『無くはないけどー』と声を揃えた。
「だからって行きたいところがある訳でも」
「したい事がある訳でもないし」
「完全に受け入れられてるとは思わないけど」
「それでも生まれた村だし」
「もしかしたらそのうち出ていきたいとか思うこともあるかもしれないけど、今はとりあえずいいかな」
シアンは『ふーん』と相づちを打つと足先を川につける。
「…そうゆうもんか」
二人に言ったのか、それとも独り言なのか、シアンはそう言うと足を蹴り上げ、その飛沫を見つめていた。