ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

お風呂

川沿いの林の一角が開けているが、簡単な板塀が視界を遮り、奥は見通せない。

岩に当たる水の音、風に吹かれた木々のざわめき、時々どこからともなく聞こえて来る鳥の声。

板塀の奥には湯の張られた岩風呂があった。

元々一枚岩なのか、魔力で接いであるのかは判らなかったが、湯船自体もかなり広い上に、その周囲もただの地面ではなくわざわざ岩を広げてあることを見ると、やはり魔力で接いだ岩なのだろうと、シアンは屈み込んでその岩に触れる。

「あったかい…」

「岩自体に魔石をつけて保温してるの。お湯は川の水を薪で焚いたり、魔力で温めたりどっちもするけどね」

「湯量も多いし、温まるには時間かかるけど、一回温まってしまえば魔石を止めても長く持つのよ」

二人は一度川に入って足の汚れを落とすと、さっさと服を脱いでいく。

二人とも色が白く、お腹周りに肉は付いていないようだが、胸やお尻は豊満で張りがある。

ただ、シャールだけは淡い桃色に染まった大小いくつもの傷痕が全身に散っていて、シアンは首を傾げながら自分も服を脱ぎはじめた。

シアンはやや小柄な割に足が長く、褐色の身体は引き締まり、胸も形良く膨らんでいるが、こちらも体中に傷痕が散っている。

「ずいぶん傷が多いのね?」

自分の身体とシアンの身体を見比べながら髪をまとめようとかきあげたシャール、シアンはうなじにはえた細かな羽毛に気を取られつつも答えた。

「似たようなもんだろ? シャールは戦ったりするようには見えないけど、何の傷なの?」

「ふふっ、見えない? 私だって戦うのよ?」

翼を大きく広げて身体を流し、二人を放って一足先に湯船に入って行ったジェナは寝湯とでもゆうのか、浅く湯の張った岩の上に俯せになると『ふぁー』と声を上げながら力を抜き、横にはりだした一段高い岩に翼を預けてくつろいでいる。

「あぁ! ずるい!!」

それを見たシャールは川で身体を流すと足先だけを湯につけてジェナに近付き冷たい身体でその上に覆いかぶさる。

『ひゃっ』と声を上げたジェナの腰に座ったシャールはその背中をくすぐり、

「ジェナは普通に浸かれるんだからぁ」

と翼を大きくばたつかせながら抗議する。

「分かったから! やだ、もう、脇腹ぁ…」

湯に浸かりながらじぁれあう二人を傍から眺めていたシアンが『仲いいんだな』と呟くと、二人は恥ずかしかったのか頬を赤らめすぐに身体を離す。

そしてジェナは大きく広げた翼が湯に浸からないように湯船の角に背中を預け、シャールは寝湯に腰掛けた。

「ここが使えるのってそう無いのよ。時間も魔力もかかるから」

「シャールはここじゃないとお湯に浸かれないし、私も翼を下ろしてお風呂に入れるのはここが使える時ぐらいだからちょっと…ね」

シアンはまるで言い訳でもするかのように口を開いた二人に、くくく、と喉を鳴らし、『本当に仲がいいんだな』と改めて言う。

二人は顔を見合わせ、ばつが悪そうにしながらもふっと笑みをこぼして、『二人きりだから』と声を揃えた。